新しい資本主義実現会議(第5回)において、次のテーマが議論されました。
(1)コロナ後に向けた経済システムの再構築 (①スタートアップ、②オープンイノベーション、③フリーランス、 ④債務整理、⑤上場制度 等)
(2)新しい資本主義に向けた非財務情報の可視化
本日は、会議の論点案から、国が検討している起業や人材について見ていきます。
コロナ後に向けた経済システムの再構築
日本の開廃業率は、米国や欧州主要国と比べ、低い水準で推移している。スタートアップの育成について、官民の役割分担を明確にしつつ、5ヵ年計画を作成し、かつ、その実行とフォローアップのための政府内の横断的司令塔機能を明確化すべきではないか。
出所:新しい資本主義実現会議(第5回)論点案
コロナ禍前2019年の日本の開業率は、4.2%でした。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの開業率は、この2~3倍です。国をあげたスタートアップ育成の支援が検討されています。
ベンチャーキャピタルの投資を受けたスタートアップは、イノベーションに積極的である。他方、我が国のベンチャーキャピタル投資は、投資額、件数ともに小さい。これを拡大させる方法として、海外のベンチャーキャピタルの誘致も含めて、ベンチャーキャピタルへの公的資本の(有限責任投資等による)投資拡大、ベンチャーキャピタルと協調する支援の拡大及びそのための体制整備が必要ではないか。
スタートアップを育成する際、公共調達の活用が重要である。SBIR制度(Small Business Innovation Research)について、創業間もない企業(スタートアップ)への支援の抜本拡充を図るべきではないか。
2000兆円に及ぶ日本の個人金融資産がスタートアップの育成に循環するとともに、GPIF等の長期運用資金が、ベンチャー投資やインフラ整備などに循環する流れを構築するべきではないか。
起業に関心がある層が考える失敗時のリスクとして、個人保証が挙げられている。創業時に信用保証を受けている場合には、経営者による個人保証を不要にするといったように、個人保証の在り方について、見直す必要があるのではないか。
出所:新しい資本主義実現会議(第5回)論点案
アメリカの調査で、ベンチャーキャピタルの投資を受けた企業は、そうでない企業に比べ、雇用増加率が10年間で約1.4倍、取得した特許ストックの増加率が約1.6倍だったという結果があります。ベンチャーキャピタルの投資は、有用なアドバイスを得られるといった面もあると思いますが、適度なプレッシャーを与えるという側面もあるのかもしれません。
私は、本年3月に会社を設立したのですが、年金事務所の担当者との会話でとても驚いたことがあります。新規に会社を設立された社長は、多くの方が月収を10万~20万円に設定されているとのことでした。初年度のため売上が見込めない可能性はありますが、社会保険料や所得税を低く抑えることを優先し報酬を決定しているようでした。これは最初から売上は見込めないことを前提としており、目標の達成は難しと感じます。起業家が様々な手段で資金調達でき、覚悟を持って力を発揮したい気持ちとなる、こうした環境が必要なのではないでしょうか。ベンチャーキャピタルの整備や支援や公共調達は、これから起業される方にはとても有用と考えます。
優れたアイディア、技術を持つ若い人材を選別して支援することは、スタートアップ育成として有意義。これまでも、一部に試み(「未踏」プロジェクト)があり、委員の中にも評価する声が高いが、規模は限定的。国を挙げた支援に拡大していくべきではないか。
スタートアップを振興するためには、人材の流動化が不可欠である。その手始めとして、情報開示も含めて、副業・兼業を認める企業数を拡大していくことが必要ではないか。
出所:新しい資本主義実現会議(第5回)論点案
副業・兼業は、情報漏洩や勤怠管理などリスクはありますが、会社員が起業家精神を養う上で、とても有用と感じています。個人のスキルをオンライン上で売買できるようになりました。しかし、どんなに低価格のサービスでも継続的に買っていただくことは、簡単ではありません。お客さんの悩みが何かを知り、共感し、悩みを解決できるサービスを提供する、これを突き詰めることが必要です。考える過程を通じて、課題を見つけ解決する思考、新しいアイディアを産み出す思考、ビジネスを創り出す思考が身に着くのではないでしょうか。
私自身、毎日、試行錯誤の連続です。まだまだできていませんが、事実をよく見て、深く考え、すぐ行動することを意識して、毎日過ごすようにしています。若者はもちろん、中高年も、体力も時間もまだまだやれるの気持ちで、ぜひ副業や兼業にチャレンジしていただきたいものです。
新しい資本主義に向けた非財務情報の可視化
「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革を進め、新しい資本主義が目指す成長と分配の好循環を生み出すためには、人的資本をはじめとする非財務情報を見える化し、株主との意思疎通を強化していくことが必要ではないか。米国市場では無形資産(人的資本、知的財産資本等)に対する評価が太宗を占めるようになってきているが、日本市場では依然として有形資産に対する評価の比率が高い。日本の場合、特に非財務情報を見える化する意義が大きいのではないか。
出所:新しい資本主義実現会議(第5回)論点案
人的資本情報の開示です。開示情報として、よく取り上げられるのは、従業員の研修参加率、年間の従業員教育費、エンゲージメントスコア、離職率、女性比率、外国人比率などです。開示は、企業の人材投資を増やす方向に向かわせます。投資には効果が求められるため、人材に対する評価がシビアになることが予想されます。
まとめ
国は、起業家育成、副業・兼業推進、人的資本情報の開示、人材投資を推進しています。成長したい人や新しいことにチャレンジしたい人には、追い風です。一方で、充実した制度は、制度を使うことを目的としがちで、本来やりたいことが曖昧になることがあります。制度を目的化せず、目標に向って制度をうまく使い、一人でも多くの働き手が活躍できる社会になることを願います。