これからの働き方と人材

記事

未来人材会議で議論されてきた「未来人材ビジョン」(経済産業省)が公開されました。日本の未来を支える人材を育成・確保するための大きな方向性と、 今後取り組むべき具体策を示しています。

問題意識

未来人材会議が発足した問題意識は次のとおりです。

より少ない人口で社会を維持し、
外国人から「選ばれる国」になる意味でも、
社会システム全体の見直しが迫られている。
雇用・人材育成と教育システムは、別々に議論されがちであるが、
これらを一体的に議論することに、意義がある。

企業ができることは何か。
これからの時代に必要となる具体的な能力やスキルを示し、
今働いている方、これから働き手になる学生、教育機関等、
多くの方々に伝えることで、それぞれが変わっていくべき方向性
が明確になるのではないか。
こうした問題意識から、本会議は出発した。

テクノロジーや脱炭素の進展により仕事が変わり、国内の人口が減る中で、日本は社会システム全体の見直しが迫られています。未来会議では、この大きな課題を、雇用・人材育成と教育システムから議論しています。確かに必要な議論にもかかわらず、これまで特になされてきていません。とても価値あることだと感じます。

労働需要の推計

2030年、2050年における日本の労働需要を推計する上で、最初にこれからの若い世代に求める姿勢を検討しています。

次の社会を形づくる若い世代に対しては、
「常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力」
「夢中を手放さず一つのことを掘り下げていく姿勢」
「グローバルな社会課題を解決する意欲」
「多様性を受容し他者と協働する能力」
といった、根源的な意識・行動面に至る能力や姿勢が求められる。

「ゼロからイチを生み出す能力」、まさに成功する起業家に求められる資質でしょうか。一方で、とてもハードルが高いようにも感じます。既に存在するものを別の用途に応用することでも、新しい需要は喚起できますね。夢中を手放さない、社会課題、多様性、いずれも忙しい職場においては、頭では理解しても、なかなか行動に移すことが難しいと感じるものです。

今後は若手が減少し、働き手の中核世代は中高年になります。上記の姿勢は、現役世代である30~40代の方々が、まず意識することが大事な気がします。

労働需要は、次のように推計されています。

目指すべき高成長シナリオでは、2050年において、
特徴のはっきりした労働需要の変化が確認された。
「職種」・・・事務従事者42% 減少
       販売従事者26% 減少
       情報処理・通信技術者20% 増加
       開発・製造技術者11% 増加
「産業」・・・卸売・小売業27% 減少
       製造業1% 減少

事務職は激減し、情報処理・通信技術者が増えます。昨今の自動化の進展を踏まえると、これは多くの方にとって、想定範囲の結果かもしれません。

雇用・人材育成

日本の雇用の現状は、次のとおりです。

  • 世界最低水準の従業員エンゲージメント
  • 現在の勤務先で働き続けたい人は少ない
  • 起業や転職を考える人は少ない
  • 課長、部長の昇進は遅い
  • 日本の部長の年収はタイより低い
  • 転職が賃金増加につながらない
  • 企業は、従業員のスキルに不足を感じている
  • 企業は人に投資せず、個人も学ばない
  • 経営者の多様性が低い
  • 経営者の女性比率が低い
  • 日本企業の国際競争力は31位

書きながらとても残念な気持ちになりますが、これが事実です。未来人材会議は、この現状を踏まえ、次の2点を変える必要があると述べています。
日本型雇用システムの転換

家庭をかえりみない会社人生、新卒で入社した会社で定年まで働く、学びは会社の仕事を通じてだけ、といったこれまでの働き方を、キャリアや人生設計の複線化が普通になる社会に転換していく。多様な人材がそれぞれの持ち場で活躍し、失敗してもまたやり直せる社会とする。
・採用戦略の転換

企業は、新卒一括採用を改め、学生が「何を深く学び、体得してきたのか」を見て採用する。学生の職業観を培うインターンシップを充実する。

教育

教育については、「知識」の習得と「探求力」の鍛錬の2つの機能から考える必要があるとされています。

「知識」に関しては、企業や大学等の教育プログラムを共通の知として、誰もが年齢や居住地を問わずにアクセスし、個別最適な学びを実現する、としています。

「探究力」に関しては、社会課題や生活課題の当事者として、自分に足りない知恵を集め、異なる他者との対話を通じて、協働的な学びを行う、としています。

イメージとしては、知識をつけ、他者とのつながりを持ちながら、社会課題を乗り越えていく人でしょうか。本当に理想的な人材です。

まとめ

未来人材ビジョンでは、次のような結語で終わっています。

これから向かうべき2つの方向性を示したい。
旧来の日本型雇用システムからの転換
好きなことに夢中になれる教育への転換

「旧来の日本型雇用システムからの転換」とは、
人的資本経営を推進することで、働き手と組織の関係を、
閉鎖的な関係から、「選び、選ばれる」関係へと、
変化させていくことである。

多様で複線化された採用の「入口」を増やしていくことでもある。

これらを通じて、多様な人材がそれぞれの持ち場で活躍でき、
失敗してもまたやり直せる社会へと、変化していく。

「好きなことに夢中になれる教育への転換」とは、
一律・一斉で画一的な知識を詰め込むという考えを改め、
具体的なアクションを起こすことである。

一人ひとりの認知特性・興味関心・家庭環境の多様性を前提に、
時間・空間・教材・コーチの組み合わせの自由度を高める方向に転換し、
子どもたちが好きなことに繰り返し挑戦したくなる機会を増やしていく

太字は筆者

さらに、報告書では、具体的な施策案まで示しています。

縦割り行政と言われますが、未来人材会議では、経済産業省、文部科学省、厚生労働省が連携して、議論を進めてきています。大きな課題を前に、国も変わってきました。

昨今、AIなどテクノロジーの進化が注目を浴びていますが、逆に人間と比べた時の限界も分かり、改めて、人間の凄さを感じることがあります。脳も筋トレと同じで、年齢に関係なく、使えば使うほど成長すると言われます。働き手一人一人が、一日5分の新しい行動を始めることが、国家的な課題に対する最善の策かもしれません。

関連記事

カテゴリー

アーカイブ