人への投資の論点

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第12回「新しい資本主義実現会議」が開催され、企業間の労働移動の 円滑化・リスキリング・構造的賃金引上げについて議論されました。論点集から転職やリスキリングに関連する項目を見ていきます。

論点

企業間の労働移動が円滑である国ほど、国の労働生産性が高くなることが確認されている。我が国において構造的に賃金引上げを行うためにも、労働者の立場に立って企業間・産業間で労働移動したい方は円滑にそれが可能となる労働市場を作り上げるべきではないか。この際、同一企業内にとどまる労働者についても、企業間の労働移動が円滑である国ほど、生涯における賃金上昇率が高くなることに留意すべきではないか。すなわち、労働移動が円滑であれば、企業側も雇用している人材について賃金やエンゲージメント(従業員の企業に対する愛着心や思い入れ)を高めることで、労働市場において競争力を保つ努力を図ることになるのではないか。

太字は筆者

新卒と中途の区別がなくなり、転職が増えることが、国の労働生産を高めるということです。人材の流動性が高まると、転職しない社員の賃金についても、上昇率が高まるとされています。働き手が、容易に転職できるようになると、企業側は退職を減らすために、賃金アップやエンゲージメントを高める動きを強めると予想されています。

人材の流動性が高まると、成果に対するプレッシャーが高まり、自己啓発に励む人が増えると考えられます。スキルや能力の高い人は、より好待遇が期待できますが、そうでない人には厳しい時代となります。これまで以上に、格差が広がる懸念があります。副作用の対策も併せて検討することが望まれます。

労働者本人の意思を尊重するためには、労働者本人が十分な情報を得られることが前提であり、一般の方が転職やキャリアアップについて率直に相談でき、転職までを一気通貫で支援する仕組みを官民協力して作り上げる必要があるのではないか。

太字は筆者

仕事の悩みや転職について、本音で相談できる場は、なかなかありません。深い悩みを、会社の上司や人事に相談できている方は、少ないのではないでしょうか。特に、転職まで考えている場合、会社内では、なかなか相談できません。結果として、転職エージェントに相談することになりますが、そもそものビジネスモデルを考えると、相談者の立場に立ったアドバイスはあまり期待できません。

自律的キャリアが大事と言われながら、実は最も分かっていない自分を見つめ直す場がありません。転職やキャリアアップについて率直に相談でき、転職までを一気通貫で支援する仕組み、とても大事だと思います。

日本の在職者向けの学び直し支援策は企業を通じた支援が全体の75%を占め、個人への直接支援は全体の25%を占めるに過ぎない。リスキリング支援を考える場合に、政府が支援を行う場合でも、個人に直接支援を行う支援策を拡充すべきではないか。そうでないと、企業間・産業間の労働移動が困難になるのではないか。併せて、リスキリングを条件に労働者を受け入れる企業には支援を検討すべきではないか。

日本の労働政策は、失業された方に対する支援に重点を置いてきているが、北欧諸国では受講者の7割が有職者といった被雇用者でありながらのリスキリングが盛んである。在職者のうちからリスキリングを行うといった取組が重要ではないか

太字は筆者

国の学び直し支援は、75%が企業を通じた支援策ということです。人材の流動性を高めるために、個人への直接支援、在職者への支援の拡充に言及されています。

自律的キャリアの視点からも、この方向性は納得感があります。働き手にも、一定の自己負担を課すことで、より学ぶ意欲が高まると考えられます。

まとめ

「新しい資本主義実現会議」の論点集より、リスキリングに関連した項目を見てきました。人材の流動性を高めることにより、生産性向上および企業の人への投資の促進が期待されています。働き手が、キャリアや転職について率直に相談できる場を設け、正しい情報を基にじっくり内省し、適切な判断がくだせることを目指しています。在職している個人への、学び直し支援を拡充することで、人材の流動性を高めることも意図されています。

意欲がある人が頑張れる環境をつくり、頑張る人がむくわれる社会。停滞感の漂う日本において、ぜひ推し進めていきたいです。

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