新しい資本主義ー人への投資と分配

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新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」が発表されました。本日はこの中から、「人への投資と分配」について見ていきたいと思います。まずは、全体の章立てです。

  • 資本主義のバージョンアップに向けて
  • 新しい資本主義を実現する上での考え方
  • 新しい資本主義に向けた計画的な重点投資
  • 社会的課題を解決する経済社会システムの構築
  • 経済社会の多極集中化
  • 個別分野の取組
  • 新しい資本主義実現に向けた枠組み

難しそうな言葉が並びますが、「人への投資と分配」は3つ目の「新しい資本主義に向けた計画的な重点投資」に記載されています。また、具体的な取り組みは、5年間を目途とする工程表を作成し実施することになります。

「人への投資と分配」の項目立ては、次のようになっています。

  • 賃金引上げの推進
  • スキルアップを通じた労働移動の円滑化
  • 貯蓄から投資のための「資産所得倍増プラン」の策定
  • 子供・現役世代・高齢者まで幅広い世代の活躍を応援
  • 多様性の尊重と選択の柔軟性
  • 人的資本等の非財務情報の株式市場への開示強化と指針整備

この中から、働き手に直接関係のある「スキルアップを通じた労働移動の円滑化」について見ていきます。

自分の意思で仕事を選択することが可能な環境(学びなおし、兼業推進、再就職支援)

ストック面での人への投資については、職業訓練、学びなおし、生涯教育等への投資が重要である。時代や社会環境の変化に応じて、需要のある職種は新しいものに入れ替わる。また、教育訓練を受けた従業員の割合が増えると、労働者一人当たりの労働生産性や一人当たり平均賃金が上昇する効果があるとのデータがある。このため、成長分野への円滑な労働移動を進め労働生産性を向上させ、更に賃金を上げていくためにも、個々の企業内だけでなく、国全体の規模で官民が連携して、働き手のスキルアップや人材育成策の拡充を図ることが重要である。その際、デジタル人材に加え、働く世代全体のデジタルスキルの底上げを図ることにウェートを置く。また、一般の方が企業間の労働移動が容易になるよう、転職やキャリアアップについて、キャリアコンサルティングを受けることができる体制を整備する必要がある。従業員、経営者、教育サービス事業者など一般の方から募集したアイディアを踏まえた、3年間で4,000億円規模の施策パッケージに基づき、非正規雇用の方を含め、能力開発支援、再就職支援、他社への移動によるステップアップ支援を講じる。およそ100万人程度の方が利益を受けると想定される。更に教育訓練投資を強化して、企業の枠を超えた国全体としての人的資本の蓄積を推進することで、労働移動によるステップアップを積極的に支援していく。Off-JTの研修費用が低くとどまり、かつ、近年更に低下傾向にある日本企業の人的投資について、早期に少なくとも倍増させ、更にその上を目指していく。

太字は筆者

成長分野への円滑な労働移動を進めるためには、まず成長分野を創る必要があります。6月3日の日経新聞の記事において、デービッド・アトキンソン氏が、経済を成長させるための真の解決策はイノベーションであり、新しい商品を開発して、新しい需要を発掘し、それを積極財政で支えるのだ、と述べています。まさに成長分野を創ることの重要性を指摘されており、その通りだと思います。国への期待は、新しいビジネスを創ることの後押しです。

労働生産性の向上に関しては、付加価値を上げるか労働時間を減らすかということになります。日本は2000 年代以降労働時間が減少しています。2020 年の日本の平均労働時間は1,615 時間。OECD加盟国平均は1,687 時間。米国は1,767 時間、フランスは1,402 時間です。日本の労働時間は、ヨーロッパよりは長いが、米国よりは短くなっています。労働生産性を上げるには、労働時間を減らすことよりも、付加価値を上げることにフォーカスする、まさに新しいビジネスを創ることが求められます。

働き手のスキルアップや人材育成、特に働く世代全体のデジタルスキルの底上げを目指します。スキルも大事ですが、新しいことを学んだり挑戦したりするマインドの醸成も必要です。人は、外敵動機よりも内的動機による行動で、最大の成果を発揮するといわれます。自らやりたい、やろうと思える状態になるような働きかけも必要かもしれません。

キャリアコンサルティングの体制については、現在キャリアコンサルタントは4万人を超えていますが、実践の場が少ないことが課題となっています。受け皿はありますので、いかに働き手がキャリアコンサルティングを受けやすく、受けれる環境を整えるかがポイントです。

初期の失敗を許容し長期に成果を求める研究開発助成制度の奨励と若手の支援

初期の失敗を許容し研究内容の裁量性を認め長期に評価を行う助成制度と、プロジェクトベースで一定期間ごとに評価を行う通常の助成制度の効果を比較した研究では、前者は後者の研究者と比べて、2倍の数のトップ論文(引用数上位5%)を生む効果を挙げている。このため、初期の失敗を許容し長期に成果を求める研究開発助成制度を奨励する。

太字は筆者

失敗を許容するというのは、新しい取り組みを実験と同じように位置づけることと言えるかもしれません。実験は情報収集が目的です。研究開発も、情報収集を行いながら、最適解を見つけていくということでしょうか。

デジタル人材育成・専門能力蓄積

企業が賃金を引き上げるためには付加価値を高める必要があり、そのためにもデジタル分野を中心に人的投資を進めていくことが必要である。大企業、中小企業、IT企業で求める人材が異なる中、デジタル実装を進め、地域が抱える課題の解決を牽引するデジタル人材について、現在の100万人から、本年度末までに年間25万人、2024年度末までに年間45万人育成できる体制を段階的に構築し、2026年度までに合計330万人を確保する。このため、オンライン上のプラットフォームを整備し、デジタル人材の育成に取り組む大学・教育機関や企業の参画を求め、デジタル人材に共通して求められる教育コンテンツの提供や、企業の事例に基づいた実践的なケーススタディ教育プログラム等を実施する。あわせて、地方大学も含め、全国の大学等において、AI・データサイエンス・数理等の教育を強化し、文系、理系を問わずこれらを応用できる人材を育成する。

太字は筆者

デジタル人材を現在の100万人から5年間で330万人とする目標です。参考までに、ここ5年間のITパスポート試験の応募者推移を見てみました。2019年度までは、毎年約1万人の増加が続いていましたが、2020年度に約3万人、2021年度にいたっては約10万人増えています。企業の中には、ITパスポート試験の取得を必須としているところもあります。確実に”知識”は増えています。一方で、スキルをつけるには、素養、学び、実践が必要となりますので、若手の理系人材を対象に、集中的に投資を行うなどの取り組みが求められます。

出所:ITパスポート試験統計情報勤務先別一覧表を基に加工

副業・兼業の拡大

従業員1,000人以上の大企業では、特に副業・兼業の解禁が遅れている。副業を通じた起業は失敗する確率が低くなる、副業をすると失業の確率が低くなる、副業を受け入れた企業からは人材不足を解消できた、といった肯定的な声が大きい。成長分野・産業への円滑な労働移動を進めるため、さらに副業・兼業を推し進める。このため、労働者の職業選択の幅を広げ、多様なキャリア形成を支援する観点から、企業に副業・兼業を許容しているか否か、また条件付許容の場合はその条件について、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、情報開示を行うことを企業に推奨する。

副業・兼業は、企業にとってリスクもありますが、人材育成にはとても効果があると感じています。昨今、誰でも簡単に自分のスキルを売買できるようになりました。ただ、実際にやってみると、売ることの難しさがわかります。どんなに小さなサービスや商品でも、顧客はだれか、顧客の悩みは何か、提供サービスは悩みを全て解決できるか、際立った特徴があるか、といった視点で考えなくてはいけません。こうした思考と行動の繰り返しを通じて、受け身でなく、自ら動く姿勢が身に着きます。今後、大企業でも副業・兼業の緩和が進むことを願います。

まとめ

「人への投資と分配」から「スキルアップを通じた労働移動の円滑化」を見てきました。改めて、国の取り組みを記載します。

  • 自分の意思で仕事を選択することが可能な環境(学びなおし、兼業推進、再就職支援)
  • 初期の失敗を許容し長期に成果を求める研究開発助成制度の奨励と若手の支援
  • デジタル人材育成・専門能力蓄積
  • 副業・兼業の拡大

いずれも大きな課題です。一方で、全て対応する負荷は相当なものです。一つでも、本当にやりとげることを期待します。日本の人口減少が止まらない中で、一個人としても国の将来を不安に思う今日この頃です。今できる精一杯のことを実行するのみです。

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