産業能率大学総合研究所が、戦略的人材マネジメント実態調査報告書2022を公開しました。調査目的は、人的資本経営を行うとは具体的にはどのようなことであるかを、人事教育部門の視点から明らかにすることです。この中から、経営戦略と人材戦略を連携する上での課題を見ていきます。
経営層/経営企画部門における課題
出所:戦略的人材マネジメント実態調査報告書 2022/学校法人産業能率大学総合研究所
- 外部環境により経営状況が大きく左右される
- ビジネスモデルが受託中心で戦略が描きづらい
- 時代の変遷で競争環境が激変し今は正解が見えない
- 時代の変化に対応した人材の育成と採用の難しさ
- 経営戦略がない、不明確
- 経営戦略が抽象的すぎて人材戦略が立てづらい
- 現在の組織能力をもとに経営戦略が策定される
- 人的資本という考え方への理解や意識がない
- 人材戦略や育成が軽視されている
- 経営層が経験ベースで意思決定するため時代にそぐわない
- 経営層が現場を認識しないまま意思決定する
激しく変化する外部環境への対応に苦慮しています。経営戦略がない、抽象的すぎる、現行ベースなど、大元の経営戦略に関わる課題も、一定存在しています。
大企業では、人的資本の考えが浸透していますが、中手企業ではまだ理解が進んでいないようです。育成が軽視され、人をコストとして見る考え方が根強く残っているようです。
経験ベースや現場を理解せず意思決定するなど、経営の問題もあります。
CHO人事教育部門における課題
出所:戦略的人材マネジメント実態調査報告書 2022/学校法人産業能率大学総合研究所
- 経営戦略と人材戦略が連携していない
- 経営戦略のスピード感に人材戦略の見直しが追い付かない
- 経営戦略と人材戦略を実際に繋ぐ仕組みや場がない
- 経営戦略の遂行に必要なスキルがなく、人員数への落とし込みが難しい
- 経営戦略と人材戦略を繋ぐ人材やスキルが不足している
- 人材戦略がない、不明確、場当たり的である
- スタッフ不足、体制不足
- 方向性の異なる二律課題への対応(全社課題-個別課題、雇用安定-事業戦略推進、短期課題-中長期方針、個人意思尊重-戦略遂行など)
- 人材戦略立案を現場が行っており、戦略的に進められない
- 個々人が能動的に動くような意識への改革、風土醸成
- 社員のキャリア形成や自立
- シニア社員の増加と活用、若手の早期育成
- 給与水準の向上
- 経営戦略に基づきジョブ型導入予定、法制度とのずれが多く難儀している
経営戦略と人事戦略をつなぐ、仕組みおよび人材が不足しています。課題の整理、経営と現場の橋渡しが課題です。さらに、個々の社員のキャリア形成、育成、人事制度など、実務的な課題も存在します。
事業部門メンバーにおける課題
出所:戦略的人材マネジメント実態調査報告書 2022/学校法人産業能率大学総合研究所
- 計画している事業分野での採用増、中途採用増
- 適切な人員配置、バランス、適材適所が難しい
- 円滑運用のための任用・配置が中心になりがち
- 組織運営、マネジメント、戦略遂行に必要な人材の育成
- 人材戦略と社員教育や研修がかみ合っていない
- 客観的に評価すること、教育効果の定量化、可視化
- 現業部門に合わせて人事教育活動を調整すること
人材の適材適所の配置、人材戦略に基づく施策、効果測定、現業との調整など、多岐にわたる課題があります。
まとめ
人材戦略の実行は、経営戦略の連携から、育成効果の検証まで、広範囲にわたる仕事です。こうして見ると、もはや人事部門のみで対応するのは、不可能ではないでしょうか。経営トップが、経営戦略の中で人材戦略を語り、CHOおよび人事部門が、これを戦術レベルに落とし込み、さらに各事業部門の管理職が個別施策につなげていくダイナミックな動きが必要になります。
調査結果を見ると、経営や経営戦略に関する課題も多く存在しています。国が提唱している人的資本経営が、企業に浸透し、実行されるには、まだ時間を要するものと思われます。CHOや人事部門のみならず、経営トップの学びや理解が、最も必要とされていると感じます。