部下に仕事を任せられない。理由と対処方法を解説

個人のお客様ーレジリエンス

  • 部下ができないので仕事を任せられない
  • 部下に仕事を振るのを遠慮してしまう
  • いつも自分ばかり忙しくしている

本記事は、こんな悩みや疑問を解決します。

上場企業の課長に関する実態調査(第7回)/学校法人産業能率大学総合研究所によると、課長が最も強化したいと考えている能力・知識は、部下を育成する力です。全体の31.9%の方が選んでいます。

出所:上場企業の課長に関する実態調査(第7回)/学校法人産業能率大学総合研究所

    

上司と部下という言葉は、上司は部下より上、部下は上司より下と連想させます。一昔前は良かったのですが、今は違います。上司は部下より偉いのではなく、一つの役割として考えるようになりました。この変化を受け入れないと、部下が話を聞いてくれなかったり、パワハラと言われることがあります。一方で、少し注意しただけで人格否定されたように傷つく若手も増えています。

コーチ
伊集院

先日、ある中小企業の経営者と、採用のことで話す機会がありました。「今は日本人の若手よりも外国人を採用したいと思っている」とおっしゃるので、理由を聞いてみました。「日本人の若手は、注意するとすぐ落ち込み休むので、腫れ物に触るようで扱いずらい」とのことでした。組織の心理的安全性も大切ですが、個人のレジリエンスを高めることも大事だと改めて感じた出来事でした。

レジリエンスの高め方はこちらをご覧ください。

      

終身雇用が崩壊し管理職でも安泰でない現在、部下に仕事を任せずまたは任せられず、自分で抱え込む管理職が増えてきています。部下が育たず、管理職として本人の成長も停滞します。部下に仕事を任せるには、まずマインドから変えていく必要があります。

本記事では、部下に仕事を任せられない理由、部下に仕事を任せないことの悪影響、部下に仕事を任せる方法について解説します。

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部下に仕事を任せられない理由

部下に仕事を任せることは、管理職の重要な役割です。実際にはさまざまな理由から「仕事を任せること」が難しいと感じることがあります。以下は、よく見られるケースです。

  1. 良い結果がでない
    部下のスキルや経験不足によって、期待した成果が得られないと感じる場合です。過去に一度任せてみたが、できが悪い上、自分でやる倍以上の時間がかかったような体験から、こうした状況に陥ることがあります。特に忙しいと「自分でやったほうが早い」と思ってしまい、任せる意欲をなくします。      
  2. 手間と時間をかけたくない
    仕事を任せるには説明やフォローが必要となります。これを負担に感じ、つい自分でやってしまいます。部下を育てようという意識が薄く、管理職にチームとしての貢献が求められているという自覚が不足しています。
  3. 過剰に気をつかっている
    部下に負担をかけたくない、失敗させたくないという気持ちがあります。根底には、部下からよく見られたいという想いがあります。これは部下の成長を考えたものではなく、自分の保身を考えた行動です。
  4. 部下の仕事にストレスを感じる
    自分のやり方やペースと異なるとイライラが募ります。根底には「こうあるべき」といった完璧思考があります。部下のことよりも、自分を安心させる行動を優先します。
  5. 自分の仕事が優先できない
    仕事を任せると、予期しないことや突発的な対応が必要になり、自分の業務が予定どおり進まなくなることがあります。部下の育成よりも自身の業務を優先に考えるため、仕事を任せることを避けます。
  6. 部下が信頼できない
    仕事に対する部下の姿勢や能力に不安を感じ、任せた結果、自分に悪影響が及ぶと考えます。部下を信頼しよう、部下を育てようというという気持ちがありません
コーチ
伊集院

筆者も新米マネジャーの時、部下に仕事を任せるのが苦手でした。週末に部下の作成した報告書を一から書き換えるようなこともやっていました。今考えると、部下の成長よりも、自分の評価ばかり気にしていました。本当に未熟で部下には申し訳ないことをしました。

部下に仕事を任せないことの悪影響

仕事を部下に任せないことで、チームや個人に以下のような悪影響が生じます。

悪影響説明
部下が育たない部下が挑戦する機会を失い、成長の速度が遅くなります。特に経験不足の部下は、実践を通じた学びが得られなくなるため、長期的にはチーム全体のスキル低下にもつながります。
自分に余裕が生まれない自分で抱え込むことで業務負担が増加し、重要な業務に集中できなくなります。結果的に、ミスが増えたり、精神的な疲労が蓄積したりします。
部下との信頼関係が築けない任せてもらえない部下は、「自分は信用されていない」と感じ、不満を持つことがあります。これにより、モチベーションが低下し、チーム内のコミュニケーションが悪化します。
自分が管理職として人間的に成長しない部下を育てるという管理職の本質的な役割を果たさないと、自身の成長の機会を失います。組織全体への貢献度も低くなり、昇進の可能性にも影響を与えます。
新たな視点やアイディアが取り入れられない部下が仕事に主体的に取り組むことで得られる、新鮮なアイディアや視点が活用されず、組織が硬直化する可能性があります。
自分も部下も、モヤモヤが残る任せないことで部下には不満、自分には「これで良かったのか」というモヤモヤが生じ、チームとしての一体感が損なわれます。

  

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部下に仕事を任せる方法

仕事を部下に任せるためには、マインドセットと実践的な手順が必要です。

マインド 

管理職の役割は、部下の成長を支えること

管理職の仕事には、大きく事業貢献と人材育成の二つがあります。事業貢献は、組織の戦略を理解し実行することです。人材育成は、部下の能力開発とキャリア成長の支援です。

しかし、数年で上司部下の関係が変わることや、転職が増えいつ退職するか分らないといった理由から、今の関係は一時的と考え、管理職の育成に取り組む気持ちが弱まっています。人材育成は、事業貢献に比べ評価指標があいまいで、評価されにくい面もあります。

田坂広志は、著書『なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか』において、次のように述べています。

だから、我々は、自分の下にいる時代に、部下や社員の「成長」を支える。最善を尽くして、その「職業人としての成長」を支える。精一杯に、その「人間としての成長」を支える。その責任を持っているのです。

女子社員を男子社員と同じような熱意で育てようとしない。そうしたマネジャーがいます。こうしたマネジャーの方々は、おそらく、理解されていないのでしょう。部下を「一人の人間として遇する」ということの意味を、理解されていないのでしょう。マネジャーが預かる部下には、誰にも、大きな可能性がある。一人の人間として、素晴らしい成長の可能性がある。また、無条件に、そのことを信じる。

*太字は筆者
出所:なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか[新版]人間の出会いが生み出す「最高のアート」/田坂広志/株式会社PHP研究所/2022年

筆者もこの意見に同意します。一時的とは言え、管理職には部下を育成する責任があります。また、部下を「一人の人間として遇する」必要があります。まずはこのことを、しっかり認識することです。

管理職は、自分の心を知る

管理職の95%以上がプレイングマネジャーと言われる時代、部下育成が大事だと分っていても、つい自分の仕事や、目の前の効率性を優先しがちになります。

「本当はもっと部下と話す時間をとらなくてはいけないのにできていない」と思えるならいいのですが、「こんだけ教えているのになぜできないんだ」「自分はこの状況で最大限やってあげている」などと、自分を納得させて終わっているケースが見られます。

こうした態度は部下にも伝わり、部下は信頼してくれません。部下が心を開いてくれるようになるには、管理職は自分の本心を知ることが大切です。例えば、自分の本心を知ると、次のようなことに気づきます。

  • 自分は本当は部下のことよりも、自分が良く評価されることに関心があった
  • 自分は本当は自信がないので、できるだけ部下に嫌われたくないと思っていた
  • 自分は本当は力がないので、部下を褒めるとより自分の力の無さが強調されると思っていた

田坂広志は、著書『なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか』において、次のように述べています。

そのとき、河合氏が語られた言葉が、心に残っている。「人間、自分に本当の自信がなければ、謙虚になれないのですよ」「そして、人間、本当の強さを身につけていないと、感謝ができないのですよ」

*太字は筆者
出所:なぜ、我々はマネジメントの道を歩むのか[新版]人間の出会いが生み出す「最高のアート」/田坂広志/株式会社PHP研究所/2022年

自分の心を知るには、自分に正面から向き合おうと思うきっかけが必要です。自らの存在を脅かし、乗り越えようと思える出来事がきっかけとなります。苦労や困難に立ち向かい続けることが、このきっかけに出会うことになります。

自分を知ると、自分の心に素直に生きることができるようになります。詳しくはこちらをご覧ください。

手順

部下に仕事を任せる際の手順は以下のとおりです。

手順説明ポイント
やり方を説明し、自ら見本を見せる業務の進め方を具体的に説明し、実際の手本を示します。部下が理解しやすい環境を整えることが大切です。なぜこの業務が重要なのか、組織全体への影響など背景情報を含めて説明します。
部下にやらせ、途中で進捗を確認する業務を進めさせながら、途中で進捗を確認します。この時、フィードバックを与えながら改善点を共有します。報告、連絡、相談を部下に任せるのではなく、確認の場をあらかじめ決めておきます。15分でもよいので、二人の時間をつくるようにします。
できた部分を褒め、振り返りを行う良い点を積極的に認めます。同時に、業務の感想を聞き、次回の改善策を話し合います。間違いがあった場合は、すぐに指摘するのではなく、「どうしてそう判断したのか」を尋ねます。その上で、考え方の改善が必要な部分を具体的に指摘します。

海軍軍人の山本五十六は、次の名言を残しています。

やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」

この言葉に全てが詰まっています。偉大な先人の言葉は参考になります。

コーチ
伊集院

迷ったとき、筆者は逆の立場になって考えるようにしています。自分が部下だったら、どうしてくれたらやる気がでるか、がんばろうと思うか、もっと努力しようと思うか、と考えます。そうすると、動きが見えてきます。

  

具体的な部下の育て方は、こちらをご覧ください。

まとめ

本記事では、部下に仕事を任せられない理由、部下に仕事を任せないことの悪影響、部下に仕事を任せる方法について解説しました。

終身雇用が崩壊し管理職でも安泰でない現在、部下に仕事を任せずまたは任せられず、自分で抱え込む管理職が増えてきています。部下が育たず、管理職として本人の成長も停滞します。部下に仕事を任せるには、まずマインドから変えていく必要があります。

管理職には部下を育成する責任があり、部下を「一人の人間として遇する」必要があります。また、管理職とはいえ人間なので、無意識に次のような状況に陥っていることがあります。

  • 自分は本当は部下のことよりも、自分が良く評価されることに関心がある
  • 自分は本当は自信がないので、できるだけ部下に嫌われたくないと思っている
  • 自分は本当は力がないので、部下を褒めるとより自分の力の無さが強調されると思っている

状況に気づくことが良い方向に進むには必要ですが、これは無意識なのでなかなか気づけません。壁にぶつかり乗り越えようと思う出来事がきっかけとなり、自分の無意識に気づくことができます。結局、苦労や困難に立ち向かい続けることが、このきっかけに出会うことになります。

テクノロジーが進展し価値観が多様化する中、管理職の難易度は確実に上がっています。ただ、この難しい課題に挑むことが、人間的な成長を促すのも真実です。試行錯誤の連続ですが、一度の人生、挑んでみる価値は大いにあるのではないでしょうか。

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ピープルエナジー代表 伊集院正

22年間、⾦融IT・リスクのコンサルティングに従事。ITリスクチームの拡大や金融セクター設立に貢献。この間、優秀な多くのコンサルタント育成に関与。2020年、国家資格キャリアコンサルタントを取得。2021年に⼈材コンサルティングを開始し、企業の従業員や働き手に対し、心理学の理論を活用したコーチングを提供中。
   
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