50~55歳の早期退職で後悔しないためには?

個人のお客様ーキャリア

  • 早期退職して後悔しないか悩んでいる
  • 早期退職しようか悩んでいる
  • 早期退職した後の仕事をどうするか悩んでいる

本記事は、こんな悩みや疑問を解決します。

株式会社東京商工リサーチによると、2024年1-9月に早期・希望退職募集が判明した上場企業は46社と前年同期の1.5倍に達しています。対象人員も、8,204人と前年同期の約4倍と大幅に増加しています。

早期・希望退職募集を実施する企業が増えています。東証プライム企業が7割、黒字企業が6割など、業績如何ではなく構造改革の一環として早期・希望退職の募集を実施する企業が増えています。

出所:東京商工リサーチ

本記事は、「50~55歳の早期退職で後悔しないためには?」と題して、早期退職で後悔する人の特徴、後悔しない方法を解説します。多くの企業では、45~50代を早期退職の対象としています。年齢の高い50~55歳の早期退職者は、再就職が難しい上、年金受給までは期間があるため、退職後の生活設計をしっかり考えておく必要があります。

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早期退職の状況

先の株式会社東京商工リサーチの資料で見たとおり、2024年現在、早期退職を募る企業が増えています。対象者の低年齢化が進んでいますが、主なターゲット層は45~50代です。

下記のグラフは、2009年から2024年までの、上場企業の早期・希望退職の推移です。2009年のリーマンショック、2012年のグローバルビジネス環境の急変、2020年のコロナショックが大きな山でした。2024年、再び上昇が始まりました

出所:東京商工リサーチ

2024年の早期退職募集は、黒字企業が約60%を占めます。ビジネスポートフォリオを柔軟に変える、前向きな投資と言えるかもしれませんが、企業において早期退職募集のハードルが下がっていると理解できます。

出所:東京商工リサーチ

再就職は年齢が若ければ若いほど容易です。気力体力も若いほど充実しています。早期退職の選択は若ければ若いほど良い、と筆者は考えています。若くして早期退職に手を上げる方は、能動的に人生設計を行っている方です。

一方、50歳を超え、はじめてこの先の人生を考え、早期退職を検討し始める方もいます。再就職は難しく、65歳の年金受給まで10年以上あり、早期退職において最もリスクの高い年代です。

早期退職で後悔するケース

ここから早期退職して後悔する人の特徴を見ていきます。前述したように50~55歳で早期退職すると、再就職が厳しい中、年金受給までどう過ごすかが問題です。何ら対策をしないと、次のようなことになります。

経済的な準備不足

退職後、収入が大幅に減少したにもかかわらず、生活費や将来の資金計画が不十分なままだと、家計が圧迫されます。特に、50代は教育費や住宅ローンなどの負担が重なる時期です。「退職金があれば大丈夫だろう」は甘い見通しです。

夫婦二人で月25万円の生活費の場合、55歳で退職したとして、年金開始の65歳まで10年間で3,000万円が必要になります。生活費をおさえたとしても、物価上昇や突発的な出費に備えるためには、できればこのぐらい考えておきたいです。

再雇用やアルバイトで働いたとしても低賃金のため、準備不足の方は経済的な悩みがついてまわります。副業すれば何とかなるだろうと思うかもしれませんが、甘い世界ではありません。『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか/若月澪子』では、副業の森をさまようおじさんは、次のフェーズをたどるとしています。再就職にも同じことが言えます。

(1)夢見がち期

「経験や知識を活かした副業をやりたい」と考えるも、何から手をつけたらいいのかわからず、ネットをさまよう。

(2)とりあえず期

小遣い稼ぎになりそうなアンケートモニターやポイ活(ポイントを貯める活動)にとりあえず取り組む。

(3)クリエイティブ期

ブログや動画の投稿をしてみるが、フォロワーが増えず更新が滞る。もしくは、ウェブライターなどの副業に応募するも、「研修費」と称してお金を要求される上に、報酬の安さに絶望する。

(4)開き直り期

結局、手っ取り早く現金が手に入る、時給1000円前後の肉体労働のバイトにいそしむ。もしくは「人の役に立ちたい」と福祉、教育系バイトに携わるも、賃金の安さに挫折する。

(5)絶望とあきらめ期

バイトの労働条件の悪さに辟易し、好条件を求めてバイトを転々とする。もしくは、振り出し(1)に戻る。

出所:副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか/若月澪子/2023年12月30日/朝日新聞出版

何をしたらよいのか分らない

退職後の生活や仕事に関する具体的なプランがないまま退職すると、「何をしたら良いのか分からない」という状態に陥ります。中には、辞めてから「自分探しを始めようと」と言う方もおり、これではリスクが大きすぎます。

特に大企業に勤めていると、「キャリアを活かしたい」「人のためになることをしたい」と、安易に考える方がいます。大企業に勤めていても、年齢が上がると中小企業とはいえ、思うような再就職はできません。安易な考えの背後には次のような意識がありそうです。

  • 大企業にいたので、何とか再就職できるだろう
  • 管理職が長かったので、再就職してもそれなりの給与をもらえるだろう
  • 中小企業は大したノウハウが無いはずなので、自分を高く買ってくれるだろう
  • 自分の人脈だったら、独立してもうまくいくだろう
  • 自分の経験だったら、講師やライターとして声がかかるだろう

一部のずば抜けた人を除き、全て誤りです。退職すると、前職の規模や知名度は関係ありません。個人として何ができるのかを問われます。とても厳しい現実がまっていますので、事前に入念な準備が必要です。

闇雲に資格取得に熱を上げる人もいます。資格を取ることと、仕事ととして稼ぐことは別ものです。深く考えずに資格取得に走ると、時間とお金の浪費となります。

コーチ
伊集院

筆者は3年半前に会社を退職し、起業して2年半になります。会社の看板ではなく、自分の力で勝負するんだと考え始めたのですが、実際にはうまくいかないことばかりでした。無意識に中小企業を下に見たりと、力を過信している自分がいました。こうした経験を通じて、本当の自分が見えてきました。頭では理解していても、体験しないと本当には理解できないと感じました。

家族ともめる

退職を決める際に家族の意見を軽視すると、生活設計や収入減少に関する認識のズレが生じることがあります。退職後に家族との間で摩擦が起こりやすくなります。

特に家族が賛成してくれない場合は注意が必要です。退職すると家族と一緒に過ごす時間が増えます。働き方によっては、終日、家族と家で過ごすことになるかもしれません。家族には自分の生活リズムがあるため、自分のペースが乱されることにストレスを感じます。小さなことですが、毎日の食事の用意なども、積み重なると大きな負担になります。

社会的な孤立

会社を辞めると、これまで自然に得られていた人間関係や役割が一気に失われます。退職後に孤独を感じたり、社会とのつながりが希薄になります。心の健康を損なうこともあります。

特に、会社や仕事仲間の人間関係に依存していた場合、孤立感が強くなります。中高年の多くが、会社で我慢してきた煩わしい人間関係は避けたいと思いつつ、人には感謝されたいと思っています。お金があっても、人とのつながりがない環境は、とても寂しく耐えられるものではありません。

    

このように、50~55歳で早期退職した場合、経済的にも、心の安定にも不安要素が数多くあります。課題に向き合わずに退職すると、間違いなく後悔することになります。

後悔しない対応方法

後悔しないためには、早期退職に向けた心構えを意識し、事前にやることを押さえておくことが重要です。以下に対応方法を説明します。

早期退職に向けた心構え

まずは心構えです。50~55歳で早期退職を考えた際、次を意識することが大切です。

  • 何もしなければ収入や生活が衰退していく可能性があるため、将来を楽観視せず危機感を持つ
  • 現在の境遇は、名刺や肩書きで成り立っていると理解する
  • 決断を後回しにすればするほど、可能性は狭くなることを理解する
  • 忙しさを理由にキャリアプランの構築を後回しせず、今すぐに考え始める
  • キャリアは、60歳または65歳ではなく、70または75歳まで考える
  • 人生100年時代になり、60歳はキャリアゴールに向けての通過点に過ぎないと考える
  • 退職後は、現職の企業や同僚との縁はなくなると考え、新しい世界を作る気持ちを持つ
  • これまでの成功事例が通用するとは限らないことを理解する
  • 今の会社で研修制度や人間関係を思う存分活用し、将来に備える
  • 現職で存在価値を発揮しているか、心を入れ替えることで再起できないか考える
  • チャンスは行動に移すことで得ることができ、何かを始めるのに早い、遅いはない
  • 素直な気持ちで接することで良好な人間関係が構築できる
  • できないことが恥ずかしいわけではなく、やろうとしないことが恥ずかしい
  • 待遇面、労働条件が変わっても今まで以上に仕事に打ち込む
  • やらされている仕事ではなく、攻めの仕事をする
  • 人間性や仕事へのモチベーションが高く、年齢を感じさせない人材を目指す

早期退職に向けやること

早期退職の前にやることです。完璧に準備するのは難しいですが、一通り確認するだけでもリスクを認識できるため、後悔を防ぐことになります。

やることポイントやり方の例
経済的な計画を立てる早期退職後は収入が減るため、一定期間の生活費を蓄えておきます。退職金に頼りきらず、手持ち資金と支出のバランスを見直します。①現在の生活費を把握する
毎月の支出を詳細に把握します。固定費と変動費に分けて整理すると、削減可能な部分が見つけやすくなります。

②退職後の生活スタイルをシミュレーション
退職後は支出の内容が変化します。通勤費や外食費が減る一方、趣味や医療費が増える可能性があります。医療費は予期せぬ負担になることが多いので、余裕をもった計画にします。

③必要資金を計算する
退職後3~5年分の生活費を蓄える目安を求めます。

④資金を準備する
退職金の一部を生活費に割り当てます。全額を消費せず、将来の資金として一部は長期運用に回します。使途が明確な資金を専用口座に分けて管理します。長期間使用しない資金は、新NISAなどで運用を検討します。

⑤支出の削減を具体的に実行
固定費(通信費、保険)を見直します。外食を減らし、自炊を増やします。家賃の安い地域への引越しや持ち家の売却も検討します。
キャリアの方向性を明確にする自分のやりたいこと、自分が持つスキルや経験を整理し、今後のキャリアの方向性を明確にします。①やりたいことを理解する
これまでの経験を振り返り、自分ができていたことを思い出します。「これまでの人生において重要だけどあまり人に話してこなかった出来事は?」と自分に問いかけます。振り返りを通じて、次第にやりたいことが見えてきます。詳しくはこちらです↓
やりたい仕事が分からない。50代の方にも役立つ見つけ方を解説

②できることを理解する
これまで経験してきた仕事を、時系列に箇条書きで書き出します。実績や評価も記載します。意外に忘れていることが多いので、時間をかけゆっくりと洗い出します。詳しくはこちらです↓
ジョブ・カードとは?自己理解の深掘りに使える
マイジョブ・カード

③自分のアピールポイントを考える
自分を売り込むためには、言葉で伝えることが大切です。謙遜せずに、がんばった、得意だと思うことは、書き出します。社会人基礎力をベースに考えると洗い出しやすいです。↓
社会人基礎力とは?若手から中高年社員まで使える鍛え方を紹介
経済産業省の社会人基礎力

④転職情報を収集する
求人情報や人材エージェントから、転職情報を収集します。実際にエージェントのコーディネーターに会い、自身の市場価値を把握します。中高年の転職は、学歴や社歴ではなく、何ができるかを見られることを忘れないようにしましょう。

⑤フリーランスや起業を検討する
独立に関心のある方は、フリーランスや起業も検討するとよいです。ただし、当然あまい世界ではありません。こちらのブログも参考にしてください↓
50~55歳からの起業・独立の実態は?失敗しないために知っておきたいこと

⑥先輩に聞く
早期退職した先輩社員や雇用延長している先輩社員に、生の声を聞いてみるのもよいです。または信頼できる上司に会社の意向を聞くのも一つです。正直に本当のことを言っていただけないかもしれませんが、反応や態度から感じ取ることはできます。

⑦家族と話す
方向性が見えてきたところで、家族に話します。具体的に決まっていない点は、取り得る案を提示し、リスクも含め共有します。全て自分で抱え込まず、熱意をもって協力して欲しいと話すことが、後々のもめ事を減らします。
コーチ
伊集院

意外と軽くみられがちなのは、家族との合意です。筆者も正直苦労しました😓家族の難しいところはお互い感情的になりやすいことです。この辺り、意識しておくだけでも違うと思います。

楽しくない現実に向き合うには?

ここまで、早期退職を考えた時の心構えとやることを見てきました。しかし、筆者もそうでしたが多くの方は、現実に向き合いたくない、向き合うのが面倒くさいと思ってしまいます。現実に向き合うことは楽しくないのです。

楽しくない現実に向き合うには、自分を架空のAさんに置き換え、Aさんはこの先どうすればやりたいことを実現できるかと、他人事で考えるのです。その時、紙に書くのもポイントです。Aさんという他人を、自分がコンサルティングするような感覚です。

当事者を他人に置き換えることで、客観的に考えることができます。頭で考えたり、パソコンを使うのではなく紙に書くことで、感情的にならず前向きなアイディアが出やすくなります。

楽しくない現実に向き合うには、自分を架空の人物Aさんに置き換え、紙に書いて考える

   

まとめ

本記事では、早期退職の状況、早期退職で後悔する人の特徴、後悔しない方法を解説しました。50~55歳の早期退職者は、再就職が難しい上、年金受給までは期間があるため、退職後の生活設計をしっかり考えておく必要があります。

早期退職は、経済の面からも、キャリアの面からも、人間関係の面からも、甘くないことを理解しましょう。後悔しないためには、事前準備は最も大切です。大きく経済とキャリアの2つの準備が必要です。ただ頭で分っていても、なかなか現実に向き合わない方が大勢います。現実に向き合うのは楽しくないためです。

これを克服するには、自分を架空の人物Aさんに置き換え、紙に書いて考えることが有効です。

50~55歳で早期退職への応募を考え始めた方は、手を上げる前に、現実に向き合う時間をとってください。向き合うことにためらいのある方は、本記事で紹介した方法をぜひ参考にしてみてください。

引用文献

  • 副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか/岩月澪子/2023年12月30日/朝日新聞出版
  • 再就職できない中高年にならないための本/谷所健一郎/2015年6月1日/株式会社シーアンドアール研究所

  

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ピープルエナジー代表 伊集院正

22年間、⾦融IT・リスクのコンサルティングに従事。ITリスクチームの拡大や金融セクター設立に貢献。この間、優秀な多くのコンサルタント育成に関与。2020年、国家資格キャリアコンサルタントを取得。2021年に⼈材コンサルティングを開始し、企業の従業員や働き手に対し、心理学の理論を活用したコーチングを提供中。
   
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