2020年9月の「人材版伊藤レポート」(経産省)から1年半が経ち、人的資本経営を実施するための具体的なアイディアを取りまとめた「人材版伊藤レポート2.0」(経産省)が公開されました。
「人材版伊藤レポート2.0」(経産省)は、「人材版伊藤レポート」(経産省)が示した内容を更に深掘り・高度化しています。特に「3つの視点・5つの共通要素」という枠組みに基づいて、実行に移すべきと考えられる取組、その重要性、及びその取組を進める上で有効となる工夫が示されています。
ここで、3つの視点と5つの共通要素を振り返ります。
目次
3つの視点
視点①:経営戦略と人材戦略の連動
経営戦略・ビジネスモデルと表裏一体で、その実現を支える人材戦略を策定・実行すること
視点②:As is‐To beギャップの定量把握
As is‐To beギャップを可能な限り定量的に把握すること
視点③:企業文化への定着
企業文化を定義し、企業文化への定着に向けて取り組むこと
5つの共通要素
要素①:動的な人材ポートフォリオ
将来的な目標からバックキャストする形で、必要となる人材の要件を定義し、その要件を充たす人材を獲得・育成すること
要素②:知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
経験や感性、価値観、専門性といった知と経験のダイバーシティを積極的に取り込み、具現化していくこと
要素③:リスキル・学び直し
個人の自律的なキャリア構築を支援すること
要素④:従業員エンゲージメント
従業員がやりがいや働きがいを感じ、主体的に業務に取り組むことができる環境を創りあげること
要素⑤:時間や場所にとらわれない働き方
いつでも、どこでも、安全かつ安心して働くことができる環境を平時から整えること
まとめ
本報告書は、「人的資本が重要」という認識を超えて、人的資本経営という変革を、どう具体化し、実践に移していくかを主眼とし、3つの視点と5つの共通要素から述べたものです。さらに、変革を通じて、日本社会で働く個人の能力が十二分に発揮されることも期待されています。報告書には、次のような記載があります。
「今でも社会の一部に根強く残る、画一的な雇用システムが解きほぐされ、社会全体として、個人のキャリアがますます多様化することでもある。そうした社会では、社会に出る前に何を学んできたのかということに光が当て直され、また同時に、リスキルや学び直しの価値が社会全体としても評価されていくだろう。日本社会がより一層、キャリアや人生設計の複線化が当たり前で、多様な人材がそれぞれの持ち場で活躍でき、失敗してもまたやり直せる社会へと転換していく。」(太字は筆者)
”多様な人材がそれぞれの持ち場で活躍でき、失敗してもまたやり直せる社会”、本当に素晴らしいです。このような社会に少しでも近づきたいものです。
それでは、具体的な施策例を見ていきたいと思います。今回は、企業の中核人材である管理職の方々を対象とした施策を取り上げます。
キャリア採用や外国人の比率・定着・能力発揮のモニタリング
工夫1:一時的な状況でマネージャーを評価せず、マネジメントの改善を高く評価する運用
・課長やマネージャーにとっては、自分の考えに基づいて、メンバーに具体的な指示を与えるマネジメントの方が、短期的には組織として成果を上げやすいのが実情。
・しかし、課長やマネージャーがメンバーの多様な知や経験を活かし、組織の成長につなげるためには、この葛藤を乗り越えて、試行錯誤を重ね、マネジメントスタイルを段階的に見直していくプロセスが求められる。このプロセスには失敗がつきものである。
・そのため、このような試行錯誤の上での失敗については、課長やマネージャーの評価から意識的に切り離し、むしろ、試行錯誤自体を高く評価する運用を採る。
失敗はつきものであるため、試行錯誤を高く評価する、ということです。失敗を許容しない、完璧を求める、これまでの日本的な物の見方とは大きく異なります。不安の反対語は安心ではなく”行動”と言われることがあります。失敗を恐れずチャレンジする人が評価される社会、ワクワクします。
ダイバーシティマネジメント上の工夫の共有・勉強会を奨励
・多様な人材を活かす能力を高める上で重要なのは、課長やマネージャー自身が課題を感じた際に、その克服に向けて相談できる同僚がいることである。
年齢、性別、国籍のみならず、転職が当たり前になる社会では、一人一人が多様な人材です。これからは、こうした人材を短期間でチーム化し課題に取り組みことが求められます。管理職の悩みはつきません。相談できる同僚、メンター、コーチが必要です。
エンゲージメントレベルに応じたストレッチアサインメント
・社員のエンゲージメントレベルが低下している場合、放置すると離職のリスクも高まる。
・社員のエンゲージメントレベルを回復し、会社のパフォーマンス向上につなげるために、そのような社員とともにキャリア志向を深堀りし、会社のニーズと合致するアサインメントを検討する伴走者を任命する。
エンゲージメントの低い社員に対応する場合、キャリア志向を深掘りし、会社のニーズと合致する業務を担当してもらう必要があります。ヒトの対応は、とても時間がかかる気苦労の多い仕事です。伴走者を任命しとあるように、管理職だけに任せるのではなく、メンターやコーチが向き合い、少し時間をかけながら対応することになります。
以上、管理職に関わる施策を抜粋して見てきました。個人としての結果も求められる中、管理職の仕事はとても大変です。管理職がやらなくてはいけない仕事、外部に委託しても良い仕事を組織として示し、実務として自社の最適解を探していく必要がありそうです。
(関連ブログ:チームマネジメントの実態は?多くの管理職は部下育成の時間が不足)