JILPT(労働政策研究・研修機構)は、「変わる雇用社会とその活力 ―産業構造と人口構造に対応した働き方の課題―」を発表しました。
終身雇用や年功序列に代表される日本的雇用形態が崩壊したと言われる昨今において、長期雇用の存続についての報告です。本日は、この中から「第 4 章 労働力のミドルエイジ化と地位・能力向上意欲」を見ていきます。
企業において、40代、50代社員が中心となる中、中高年においては、どのような特性の方がアクティブなのかを調査したものです。
男性は年齢が高いほど、昇進意欲は低下
出所:「変わる雇用社会とその活力 ―産業構造と人口構造に対応した働き方の課題―」労働政策研究・研修機構
このグラフは、昇進意欲と年齢の関係を表したものです。男性は、年齢が高いほど、昇進意欲のある割合が低くなっています。女性は全体として昇進意欲の割合が低く、年齢と昇進意欲の関係ははっきりしていません。ただ、中高年になっても、昇進意欲がある人は一定数います。
また、別途、社会的地位要因(学歴・職業)別も調査しており、次のような結果が明らかになっています。
- 学歴が高いほど昇進意欲の割合が高い
- ホワイトカラー職種のほうが昇進意欲の割合が高い
出所:「変わる雇用社会とその活力 ―産業構造と人口構造に対応した働き方の課題―」労働政策研究・研修機構
このグラフは、就業継続希望と年齢の関係を表したものです。男女共に、「55-59 歳」までは上昇し、定年間際の「60-64」歳では下がっています。昇進意欲にかかわらず、就業継続の意思は強いことを表しています。
男性の自己啓発は低調。女性は中高年で上昇
出所:「変わる雇用社会とその活力 ―産業構造と人口構造に対応した働き方の課題―」労働政策研究・研修機構
男性では年齢とともに自己啓発ありの割合が低くなっています。女性は、「35-44 歳」以降では、自己啓発ありの割合は男性よりも高く、中高年でも大きく下がっていません。中高年になると、女性のほうが、自己啓発に取り組んでいると言えます。
また、別途、社会的地位要因(学歴・職業)別も調査しており、次の結果がでています。
- 男女とも学歴が高いほど自己啓発ありの割合が高い傾向
- 男女ともに「専門・技術職」、「管理職」で自己啓発ありの割合が高い
女性の世界は、男性よりも実力主義が強い?
出所:「変わる雇用社会とその活力 ―産業構造と人口構造に対応した働き方の課題―」労働政策研究・研修機構
男性は「55-59 歳」で最も低く、「60-64 歳」で最も高くなっています。女性は「25-34 歳」で最も低く、それ以降は、ほぼ一定ながらM 字型になっています。男性は引退後に団体活動を始め、女性は 30 代後半から活動を始めている様子がみれます。
また、別途、社会的地位要因(学歴・職業)別も調査しており、男女とも学歴が高いほど団体活動ありの割合が高い傾向が明らかになっています。
さらに、各項目のロジスティック回帰分析を実施し、次のような結果が導かれています。
<男性>
- 年齢が若いほうが昇進意欲が高い
- 「未婚」よりも「有配偶」のほうが昇進意欲が高い
- 「転職なし」のほうが「転職 あり」よりも昇進意欲が高い
- 年収が高いほうが、昇進意欲が高い
- 「仕事能力に自信がある」ほど、昇進意欲が高い
- 定年まで就業希望ありのほうが、昇進意欲が高い
- 若いほうが自己啓発している
- 「転職なし」より「転職 あり」のほうが、自己啓発している
- 学歴が高いほうが、自己啓発している
- 「仕事能力に自信のある」ほうが、自己啓発している
- 「自分から職業生活を決定している」ほうが、自己啓発している
- 団体活動をしているほうが、自己啓発している
男性の世界では、今なお日本的な長期雇用が息づいていると言えそうです。
<女性>
- 年齢が若いほうが昇進意欲が高い
- 年収が高いほうが、昇進意欲が高い
- 年齢、職業、年収以外に有意な効果がない
- 「仕事のために家庭や自分のことができない」ことがあるほうが、自己啓発している
- 「仕事能力に自信のある」ほうが、自己啓発している
- 団体活動をしているほうが、自己啓発している
女性の世界では、男性よりも実力主義が強いのかもしれません。
まとめ
本報告書では、以上の結果から、次のように述べています。
中高年の正規労働者は、変化への対応や向上心が弱く、そのわりには居すわり続けようとする、高コストで低能率と決め付けることは適切でないといえる。おおむねホワイトカラーの労働者は昇進意欲、自己啓発という面ではアクティヴである。ブルーカラーの正規労働者はそうした点でアクティヴではないが、定年までの就業意欲や経済的動機以外の就労意欲は概して高く、一律にアクティヴでないとしてしまうことは適切でない。
出所:「変わる雇用社会とその活力 ―産業構造と人口構造に対応した働き方の課題―」労働政策研究・研修機構
分析結果から、おおむね、終身雇用的な男性正規雇用者のほうが、昇進意欲、就業継続とも希望する傾向があり、地域に定着することで団体活動も行っている。また、能力に自信があり、転職経験のある中高年正規労働者は、自己啓発による能力開発には意欲がある。
中高年に厳しい環境が続いています。デジタルを学ぶ、多様化する人材や働き方の中でマネジメントする、管理だけでなくプレイヤーとしても活動する、自律的キャリアを築く、こうしたことが求められています。これだけの環境変化に対し、うまく対応できる人ばかりではありません。一方で、中高年はアクティブな面も多く持ち合わせていることが分かりました。
現場では既に若手が減り、中高年が中心になっています。今後、人口が減り、さらにこの傾向が強まります。中高年には、リスキリングが求められます。さらに、中高年一人一人の経験、スキル、特徴を活かし適材適所の配置をどのように行うか、産業界全体で考えるタイミングかもしれません。