経団連が、「企業行動憲章 実行の手引き」を全面改訂しました。
実行の手引は、会員企業が「企業行動憲章」の精神を自主的に実践していく上で、必要または参考となる項目を例示したものです。会員企業は、持続可能な社会の実現に向けて、手引きの各項目を参考に、具体的な行動のあり方を工夫しながら、自主的に実践することが求められています。
本手引きの「第6章 働き方改革、職場環境の充実」から、従業員のキャリアやスキルアップ支援について見ていきます。
目次
従業員のキャリア・スキルアップを支援
6-4 従業員の個性と主体性を尊重し、キャリア形成や能力開発・スキルアップを支援する。
≪基本的心構え・姿勢≫
労働力人口が減少していくなか、企業が競争力を高め、持続的成長を実現していくためには、従事する仕事や職種を問わず、従業員がその個性や能力を活かし活躍できるようにしていくことが重要であることから、リスキリング等の学び直しを通じて、従業員一人ひとりの能力を高め、最大限引き出していくことが求められる。したがって、従業員の育成にあたっては、自律的なキャリア形成支援を推進する観点から、OJT(仕事を通じた部下指導・育成)、OFF-JT(企業内研修、社外研修)、多様な教育機関が提供する社外での学び直し等を効果的に組み合わせ、それらを通じてキャリア形成と能力開発・スキルアップに従業員が主体的に取り組めるよう、企業が積極的な支援と職場環境の整備を行う。
太字は筆者
出所:企業行動憲章 実行の手引き(第9版)
従業員が、主体的にキャリア形成や能力開発に取り組み、高めた能力を最大限引き出し、活躍できるようにすることが、会員企業の基本姿勢です。
従業員が、キャリア形成や能力開発に取り組める、環境整備が必要です。豊富な研修メニューを揃え、自由に受講できる環境を整えるだけでは上手くいきません。本人が、自ら本気でやると決めたことでないと、本当の力は着くものではありません。従業員一人ひとりが、自分に向き合い、キャリアを考える場が必要です。
メンター制度を活用し、上司のコーチングや傾聴スキルを磨く
≪具体的アクション・プランの例≫
太字は筆者
(1) 組織的かつ計画的にOJTを行う。
① OJTの実施に際し、メンター制度を活用し、コーチング、傾聴スキルといった上司や先輩の部下指導・育成力を高める研修プログラムを積極的に提供するなど、組織的かつ計画的にOJTを行う。
(2) 効果的なOFF-JTを実施する。
① 経営トップが人材育成の重要性を社内に随時発信し、職場の理解を促すなど、研修参加者の心理的な負担の軽減を図る。また、受講のための物理的移動に要する負担等を軽減する観点から、eラーニングも積極的に活用する。
② 新人研修や管理職研修、職種別研修、選抜・選択型研修など、キャリアステージや職務内容に応じたOFF-JTを実施し、業務遂行に必要な知識や能力の効率的な習得を促す。
③ OFF-JTの学習効果を高めるため、「アクションラーニング」や、「内省」「気づき」を促すプログラムの導入、研修前と研修後のフォローアップの強化などを行う。
出所:企業行動憲章 実行の手引き(第9版)
具体的な方法として、メンター制度の活用、上司のコーチングや傾聴スキルの研修があげられています。
管理職に、コーチングや傾聴スキルが求められるようになりました。仕事のできる管理職ほど、傾聴が苦手な傾向にあります。日常の仕事では、相手の話を聞き、問題の原因を想定し、解決策を議論し、迅速な意思決定が求められます。傾聴は、相手の話を聴き、問題ではなく相手を理解し、相手を受け入れ、内省を促すことが目的です。コミュニケーションの性質が大きく異なります。
忙しい職場環境において、仕事モードから傾聴モードを切り替えるのは、とても大変です。やってみると分かるのですが、切り替えには、気持ちを落ち着かせる時間が必要です。1日に何度も切り替えるのではなく、半日単位で、切り替えることをお勧めします。午前中は、通常の仕事をこなし、午後は傾聴が必要な部下の面談にあてる、といったやり方です。
従業員の学び直しや知的交流会等を推進
(3) 外部の教育サービス事業者や大学・大学院等が提供するプログラムの受講等、従業員のキャリア開発に資する(社外での)学び直しを奨励する。
太字は筆者
① 従業員に対して、キャリア形成や能力開発・スキルアップに資するプログラムに関する情報や受講者の声を積極的に発信する。 ② 社内研修だけでは達成し得ない専門性の獲得や視野の拡大に向けて、多様なバックグランドを持つ人々との人的ネットワーク構築や、価値創出(オープン・イノベーション)等につながる知的交流等を推進する。例えば、自社の多様なステークホルダーとの交流促進に加え、海外での研修、大学・大学院が開講する講座・課程、教育サービス事業者が主催するセミナーや異業種・異分野交流会等に対して、従業員を積極的に派遣するほか、そのような場に従業員が自主的に参加することを奨励・支援する。
③ 従業員に対し、受講費用の補助など経済的支援を行う。
④ 学び直しのための時間を確保する観点から、従業員に対し、休暇・休業制度を含む柔軟な勤務形態を導入する。
⑤ 社外での学び直しの成果(受講成果)を活かせる職務に当該従業員を従事させるとともに、処遇に反映するなど社内で積極的に評価する。
出所:企業行動憲章 実行の手引き(第9版)
従業員の学び直しや知的交流会等を推進するものです。
効果的なものとするためには、本人が納得できるキャリア観を持っていることが前提となります。
定期的なキャリアカウンセリングの実施
(4) 従業員の主体的なキャリア形成を支援する。
太字は筆者
① キャリア形成を企業主導から従業員主体に転換し、従業員のキャリア開発を促すために、定期的にキャリアに関するカウンセリングを実施する。
② 高齢従業員については、定年後の活躍を促す観点から、40歳以降の節目年齢ごとに研修を実施し、50代半ば以降のキャリアプランの明確化などに努める。また、次世代への技術・技能の着実な伝承に取り組む。
③ 副業・兼業の促進や職業能力開発の一環とした出向の活用などにより、従業員の主体的なキャリア形成やスキルアップに資する機会を提供する。
出所:企業行動憲章 実行の手引き(第9版)
定期的なキャリアカウンセリングの実施を促すものです。
キャリアカウンセリングは、従業員一人ひとりが、自分に向き合い、キャリアを考える場です。カウンセラーには、コーチングや傾聴スキルを持ち、現場部門から少し距離のあるチームや人物を充てることが望まれます。「社内の関係者に、仕事の深い悩みを話すのは抵抗がある」という声をよく聞きます。社外の活用も含め、従業員が、本音で話せる環境を整えることが必要です。
正社員のみならず、能力開発の機会を提供
(5) 雇用形態にかかわらず、意欲と能力のある従業員に対し、職務遂行に必要な知識の習得や能力開発の機会を積極的に提供する。
太字は筆者
出所:企業行動憲章 実行の手引き(第9版)
正社員のみならず、意欲や能力のある方には、能力開発の機会を提供するというものです。
ライフスタイルが多様化し、人口も減少する中で、形にかかわらず優秀な人をどれだけ引き寄せられるかが重要になってきました。
まとめ
経団連の提唱する、従業員のキャリアやスキルアップ支援を見てきました。従業員が、主体的にキャリア形成や能力開発に取り組み、高めた能力を最大限引き出し、活躍できることを目指しています。
実現するためには、従業員一人ひとりが、自分に向き合い、キャリアを考える場が必要です。一人では難しく、信頼できる相談者が求められます。上司、社内の相談部門、社外の専門家、それぞれの強みを活かしながら、どれだけ実効性のある体制を設計できるかが問われています。