- 社会的知性(SQ)とは何?
- SQで何ができるのか?
- SQを高める方法は?
本記事は、こんな悩みや疑問を解決します。
経済産業省は、「「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」~変革のための生成AIへの向き合い方~ 」において、生成AI時代に求められるDX人材像を示しています。
(3)生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキル
*太字は筆者
- 生成AIの業務での活用により知識や技術が補填されるため、DX推進人材はより創造性の高い役割としてリーダーシップや批判的思考などパーソナルスキルやビジネス・デザインスキルが重要となる
- DX推進人材には「問いを立てる力」や「仮説を立て・検証する力」、に加えて「評価する・選択する力」が求められる
- 求められるスキル
・ビジネスアーキテクト:選択肢から適切なものを判断する選択・評価する力
・デザイナー:独自視点の問題解決能力、顧客体験を追求する姿勢
・データサイエンティスト:利活用スキル(使う、作る、企画)、背景理解・対応スキル(技術的理解、技術・倫理・推進の各課題対応)
・ソフトウェアエンジニア:AIスキル(AIツールを使いこなす)、上流スキル(設計・技術面でビジネス側を牽引)、対人スキル
・サイバーセキュリティ:AI活用の利益とリスク評価、社内管理スキル、コミュニケーションスキル
出所:「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方2024」~変革のための生成AIへの向き合い方~
AI時代は、より人間特有の能力が求められます。特に、対人スキルであるリーダーシップやコミュニケーションスキルが大事になります。こうした能力は、社会的知性(SQ)とも呼ばれます。本記事では、社会的知性(SQ)とは、SQの重要性、SQを高める方法について解説します。
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目次
社会的知性(SQ)について
社会的知性(SQ)とは
社会的知性(Social Intelligence Quotient, SQ)は、他者との関係を理解し、効果的に対処する能力です。心理学者エドワード・ソーンダイクによって初めて提唱され、『EQ こころの知能指数』の著者ダニエル・ゴールマンにより『SQ 生きかたの知能指数』として書籍化されました。『SQ 生きかたの知能指数』では、次のように述べられています。
『EQ こころの知能指数』を書いた当時、わたしは個々の人間の内なる能力、すなわち自分自身の情動をコントロールする能力や肯定的人間関係を作るための潜在能力に焦点を当てていた。それに対して、本書では「二人」の心理学、すなわち人と人が心を結びあったとき何が起こるか、を考えようとしている。
・・・
わたしの場合も、他の学者たちと同じく、そうした事実をあまり理解しないまま社会的知性をEQ(情動的知性)モデルに組みこんでいた。しかし、解明が進むにつれて、社会的知性をひとまとめにしてEQ枠に放りこんでしまったのでは人間の相互関係能力に対する新しい理解を阻害するおそれのあることが見えてきた。このような近視眼的な見方では、人間の知性の「社会的」な部分を見落としてしまう。
*太字は筆者
出所:SQ 生きかたの知能指数/ダニエル・ゴールマン
SQは、EQと重なる部分も多くありますが、広く他者との相互作用に焦点を当てた能力です。
SQの構成要素
SQは、他人について何を感じとれるかの”社会的意識”と、そのうえでどう動くかの”社会的才覚”に分類できます。(SQ 生きかたの知能指数/ダニエル・ゴールマン)
社会的意識
『SQ 生きかたの知能指数』では、社会的意識として次の4つの能力が必要としています。相手の話を傾聴し、相手に話に共感し、相手の意図を理解し、さらに社会のしくみ(筆者は場の空気を読むニュアンスに近いと考えます)を知ることです。
- 他者の感情に寄り添う能力。非言語的な情動の手がかりを読み取る能力。(共感)
- 全面的な受容性をもって傾聴する能力。相手に波長を合わせる能力。
- 他者の思考、感情、意図を理解する能力。
- 社会のしくみを知る能力。(筆者は場の空気を読むニュアンスに近いと考えます)
社会的才覚
『SQ 生きかたの知能指数』では、社会的才覚として次の4つの能力が必要とされています。言語/非言語の両面のコミュニケーションに長け、相手のニーズを理解し、行動して結果を生み出すことです。
- 相互作用を非言語レベルで円滑に処理する能力。
- 自分を効果的に説明する能力。
- 社会的相互作用の結果を生み出す能力。
- 他者のニーズに心を配り、それに応じて行動する能力。
伊集院
ここまで書いてきて、正直SQは要求レベルが高いなと感じています。特に社会的才覚は難易度が高く、達成目標というより、目指す方向ととらえたほうが良いかもしれません。
SQ、EQ、非認知能力、認知能力の違い
SQの特徴を分りやすくするために、EQ、非認知能力および認知能力の違いを整理しました。
分類 | 定義 | 内容 | 例 |
---|---|---|---|
SQ(社会的知性) | 他者との関係を理解し、効果的に対処する能力 | 共感力、コミュニケーション能力、社会的洞察力 | チームでの調整、文化的多様性への対応 |
EQ(感情的知性) | 自分と他者の感情を認識し、管理する能力 | 自己認識、感情のコントロール、他者の感情理解 | 感情的に難しい状況で冷静に対応する |
非認知能力 | 知識やIQ以外の行動や人格特性 | やり抜く力(グリット)、自己制御、好奇心 | 挑戦に対する粘り強さ、自律的な行動 |
認知能力 | 記憶、問題解決、論理的思考など、知的活動に関する能力 | 知識の活用、論理的思考、情報処理能力 | 学問的知識の獲得、分析的な問題解決 |
EQについては、↓のブログをご覧ください。
EQを詳しく知る
SQの重要性
SQが高い人の特徴
SQが高い人には、次のような特徴があります。
- 職場の人間関係を良好に保つ
SQが高い人は、チーム内での役割を理解し、他者と円滑に連携できます。例えば、プロジェクトの進行中に他者の意見を尊重しながら、自分の考えを明確に伝えることができます。上司や部下との信頼関係を築くことにも長けています。
- 多文化社会に適応できる
グローバル化が進む中で、異文化間の交流が日常的になっています。SQが高い人は、異なる価値観や習慣を持つ人々を理解し、適切に対応できます。多国籍のチームで働く際に、文化的な違いを尊重しながら協力する能力は、成功の鍵です。
- 家族や友人と良い関係が築ける
SQはプライベートな関係にも好影響を与えます。他者の感情を敏感に察知し、適切なサポートを提供できることで、深い信頼関係を築くことができます。友人が困っているときに、ただ励ますだけでなく、彼らの立場に立ってアドバイスをすることが可能です。
- SNS上でも良好な関係が築ける
最近は、SNSやオンラインコミュニティを通じた交流が増えています。匿名性が高い場面では誤解や対立が生じやすくなります。SQが高い人は、他者の意見や感情を尊重し、建設的な対話を行うことができます。
SQと利他の関係
『SQ ”かかわり”の知能指数/鈴木謙介』では、幸福とSQの関係を示しています。SQが高い人は利他の精神が高い傾向があるとし、幸福感も高いと述べています。SQの最も高い人には、適度な貢献や適度な範囲での行動が見られるようです。以下は、SQの高さと利他行動の関係です。
出所:SQ ”かかわり”の知能指数/鈴木謙介を基に加工
SQの高さ 貢献の考え方 貢献の範囲 貢献の質 貢献の世代性 SQ高 自分のできる範囲での協力 自分の生活圏の中で他人を思いやる 具体的な他者のための価値 子どもや孫の代のことを考える SQ中 自己犠牲的な奉仕を志向する 地球全体のことを考える 普遍的な価値を標榜する 人類の遠い未来のことを考える SQ低 最初に自分の利益を優先する 家族や親しい人のみを考える 貢献度は金額や数字で測られると考える 自分の世代のことのみを考える
無理せず身近なことに貢献するのが、SQの高さにつながり、幸福感も上がると言えるかもしれません。著者はSQと社会の関係にも触れています。
何度も述べたように、SQという概念は、みんなで仲良くするということを推奨しているわけではなくて、見知らぬ他人とも協力できる社会をつくりましょう、そのために何か新しい工夫ができる人材というものを増やしていきましょう、ということを基本に考えています。
*太字は筆者
出所:SQ ”かかわり”の知能指数/鈴木謙介
伊集院
「見知らぬ他人とも協力できる社会」、とても納得しました。日本は見知らぬ人とのコミュニケーションが少ないです。自分もできていません😓。SQというと難しく感じますが、見知らぬ他人とも協力できる力と言うと、分りやすくていいですね。できることからやってみようと思いました。
SQを高めるには
SQを高める方法
SQはトレーニングにより高めることができます。大きく次の6つのステップからなります。
ステップ | 説明 | やり方の例 | 参考ブログ |
---|---|---|---|
①自己認識を深める | SQを高めるためには、まず自分自身を理解することが重要です。自分の強みや弱み、感情のトリガーを把握することで、他者への対応がスムーズになります。 | 毎日の日記をつけ、自分の感情や行動を振り返る。「なぜこの場面でイライラしたのか?」と自分に問いかける。 | EQとは?重視される理由、メリット・高めるトレーニング方法を解説 |
②共感力を養う | 他者の立場や感情を理解する練習をすることで、共感力を高めることができます。 | 会話中に相手の言葉だけでなく、表情やトーンにも注意を払う。相手が話し終える前に意見を言わず、まずは繰り返し確認する。 | EQとは?重視される理由、メリット・高めるトレーニング方法を解説 |
③効果的なコミュニケーションを学ぶ | 相手に誤解されずに意思を伝えるスキルを磨きます。 | 否定せず話を聴き、事実と自分の意見を伝える。「私はこう感じる」という表現を使い、相手を非難しない。 | 職場の人間関係がストレス。原因と対処法を解説 |
④多様性を尊重する経験を積む | 異なる背景や価値観を持つ人々と交流することで、視野を広げます。 | ボランティア活動や異文化交流イベントに参加する。他文化に触れる映画や本を楽しむ。 | ー |
⑤フィードバックを受け入れる | 他者からの意見や批判を素直に受け入れる姿勢を持つことで、自分を客観的に見つめ直す機会が得られます。 | 信頼できる友人や同僚に、自分の対人スキルについてフィードバックを求める。「自分のコミュニケーションで改善すべき点があれば率直に教えて」と友人に伝える。 | コミュニケーションが苦手で仕事に支障がある。克服する方法を解説 |
⑥練習を重ねる | 日常生活での小さな場面で練習を重ねることが、SQ向上の近道です。 | 日常の会話や問題解決の場面で意識的に実践する。スーパーの店員や隣人との短い会話で、笑顔や感謝を伝える。 | ー |
他の能力を含めた習得の順番
EQ、非認知能力、認知能力など、他の能力との関係において、望まれる習得の順番です。4つの能力は独立しているわけではなく、相互に影響し合うため、並行して取り組むことも可能です。
まずはEQです。EQは、自分の感情を認識・管理する能力はすべての基礎となります。感情がコントロールできることで、他者との良好な関係を築く準備が整います。
非認知能力の粘り強さや自己制御は、長期的な努力を支える力になります。EQで自己認識を高めた上で、非認知能力を鍛えることで困難を乗り越える力が育ちます。
認知能力である基礎的な知識や論理的思考力を身につけることで、問題解決能力が向上します。このステップで学びを深め、知識を実践に応用できるようになります。
最後がSQです。他の能力がある程度整った段階で、他者との関係構築を重視することで、より実践的にスキルを活用できます。特にEQと非認知能力が整っていると、他者と調和を保ちながら活動する能力が最大限発揮されます。
動物界に見るSQ
SQは人間特有のものではなく、動物にも必要とされていいます。『仲間とかかわる心の進化 ―チンパンジーの社会的知性/平田聡』では、チンパンジーを見て人間を考えています。興味深く、人間にも参考になると思いましたので、少し触れておきます。
アフリカの森の中で、チンパンジーは社会で生きていくために必要なことを自然に学んでいる
親や、おじいさんおばあさんが手本となる
子ども同士で遊びながら、他者とのつきあい方を覚える
言い換えれば、経験と学習が必要だ
動物園や研究所で飼育されたチンパンジーで、仲間がおらず、生まれて間もなくからひとりだけで過ごした場合、社会性に問題が生じることが多い
あいさつができない
ケンカをしても仲直りをしない、だから、他のチンパンジーと一緒になっても、うまくやっていけない
そして、子育てができない
チンパンジーは高い社会的知性をそなえている
しかし、それが適切に発揮されるには、それ相応の経験が必要ということだ
『仲間とかかわる心の進化 ―チンパンジーの社会的知性/平田聡』では、社会的知性(SQ)を次のようにまとめています。
- 社会的知性は、「知性」である
- 社会的知性には、経験と学習が重要である
- 社会的知性は、進化の産物である
非認知能力を知る
まとめ
本記事では、社会的知性(SQ)とは、SQの重要性、SQを高める方法について解説しました。SQは、EQと重なる部分も多くありますが、広く他者との相互作用に焦点を当てた能力です。社会的意識と社会的才覚から構成されます。
- 社会的意識
相手の話を傾聴し、相手に話に共感し、相手の意図を理解し、さらに社会のしくみ(筆者は場の空気を読むニュアンスに近いと考えます)を知る
- 社会的才覚
言語/非言語の両面のコミュニケーションに長け、相手のニーズを理解し、行動して結果を生み出す
SQを分りやすく言うと、”見知らぬ他人とも協力できる力”とも言えます。SQは次の流れで身につけることができます。1と2はEQと共通の能力です。3、4と5は非認知能力とも重なります。習得する際は、EQ→非認知能力→認知能力→SQと、最後にSQを意識するのがおすすめです。
- 自己認識を深める
- 共感力を養う
- 効果的なコミュニケーションを学ぶ
- 多様性を尊重する経験を積む
- フィードバックを受け入れる
- 練習を重ねる
参考文献
- SQ 生きかたの知能指数 ほんとうの「頭の良さ」とは何か/ダニエル・ゴールマン/2007年1月5日/日本経済新聞出版社
- SQ ”かかわり”の知能指数/鈴木謙介/2011年11月15日/株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン
- 仲間とかかわる心の進化 ―チンパンジーの社会的知性/平田聡/2013年10月4日/株式会社岩波書店
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