EQとは心の知能指数(Emotional Intelligence Quotient)の略です。自分や他人の感情を適切に認識し、コントロールし、利用できる能力のことです。EQはビジネスや人間関係における成功の要因です。EQはトレーニングにより高めることができます。
シックスセカンズジャパンによると、160の国や地域でEQを調査し、日本のEQスコアは世界最下位であるとしています。(下記グラフ参照、左にいくほどEQが低い)このグラフのX軸は世界各国の受検者のEQスコア、Y軸はWHO世界保健機関が発表している「ヘルスケアへのアクセス」「メンタルヘルスアへのアクセス」「幸福度」を合わせたNational Wellbeing Metrics(国別健康指標)です。
出所:シックスセカンズジャパンホームページ”EQスコア世界最下位の日本 感情知能EQは心のインフラになる”
日本の働き手は低エンゲージメント、低生産性、増える精神疾患など、多くの課題に直面しています。心の知能指数EQは、これら全てのベースとなります。本記事ではEQの概要を説明した上で、具体的なトレーニング方法を紹介します。すぐにEQのトレーニング方法を知りたい方はこちらです。
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目次
EQとは?
EQの定義
EQとは心の知能指数(Emotional Intelligence Quotient)の略です。自分や他人の感情を適切に認識し、コントロールし、利用できる能力のことです。
EQは、IQ(知能指数)や学歴などの知的能力とは異なり、感情的な能力を表します。EQは、1990年にアメリカの心理学者ピーター・サロイ氏とジョン・メイヤー氏によって提唱された概念で、その後、ダニエル・ゴールマン氏が著書『EQ こころの知能指数』で知られるようになりました。
EQは次の2つの能力から成り立っています。
- 自分の感情や欲求を理解し、自分をコントロールする
- 他人の感情や立場を理解し、他人と協力する
また、EQは以下の4つの要素から構成されています。
- 自分や他人の感情を認識する感情認識(自己認識)
- 感情を思考に役立てる感情利用(自己管理)
- 感情の意味や変化を理解する感情理解(関係認識)
- 感情を目的に沿って調整する感情管理(関係管理)
EQが重視される理由
ビジネスの現場では次のような人材が求められています。EQが高い人はこうした特性を備えています。
- 自分の感情をコントロールでき、ストレスに強く、常にポジティブな姿勢を保つ
- 他人の感情に共感でき、コミュニケーションや協調性が高く、信頼や支持を得ることができる
- 感情を思考や行動に活かし、創造性や問題解決能力が高く、目標達成に向けて効果的に動ける
- 多様な人と関わる機会が増えている昨今、多種多様な人材と信頼関係を構築できる
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EQが高いとは?
EQが高い人の特徴
EQが高い人には次のような特徴があります。
項目 | 説明 |
---|---|
柔軟性が高い | 状況や人に応じて、自分の感情や態度を調整できる |
共感力がある | 他人の気持ちや立場を理解し、寄り添うことができる |
オンとオフの切り替えが上手 | 仕事とプライベートのバランスを保ち、リフレッシュできる |
完璧主義にならない | 自分や他人に過度な期待や要求をせず、失敗を恐れずチャレンジできる |
自分の強みと弱みを理解している | 自分の能力や限界を客観的に見つめ、自己肯定感を持ち改善に努める |
自発的に行動できる | 自分の目標や意志が明確で、物事に主体的に取り組み、周囲に影響されず自分の判断で行動できる |
過去にとらわれない | 過去の経験や失敗にとらわれず、学びながら未来に向かって前向きに進む |
ポジティブ思考である | 物事の良い面や可能性にフォーカスし、感謝や喜びを感じ表現する |
EQの構成要素
EQは、以下の4つの要素から構成されます。
出所:EQを鍛える/DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部
項目 説明 自己認識 EQでくくられる能力のなかでもおそらく一番の主軸となるのは、自分自身の感情を読み取る力である。これによって自分の長所や限界を知り、安定した自尊心を保つことができる。共鳴力に優れたリーダーは、自己認識によって自分のムードを正しく測り、それが周囲に影響を及ぼす仕組みを直感的に理解している。 自己管理 自分の感情をコントロールし、安定した柔軟なやり方で正直かつ誠実に行動を取る力である。共鳴力のあるリーダーは、時として湧き起こる自分の悪いムードにも圧倒されることがない。自制して不機嫌を職場に持ち込まないか、あるは理由を周囲に説明して、不機嫌が何のせいなのか、どのくらい続きそうかを知らせておく。 関係の認識 これは「共感」と「組織に関する直感」という二つの重要な能力からなっている。人間関係に敏感な幹部役員は、周囲の感情をただ感じ取るだけでなく、それに対する配慮を示す。さらに、職場の人間関係の動きを読むのにも長けている。そのため、共鳴力あるリーダーは自分の言動が周囲にどういう印象を与えるかを鋭くとらえて、影響がネガティブである場合には言動を変えるだけの感度を備えている。 関係の管理 EQの最後の要素は、他者との関わり方をうまく管理する能力で、明確かつ説得力あるコミュニケーション力、衝突をなだめ抑える力、個々の社員との強い絆を築く力などが含まれる。共鳴力あるリーダーはこれらのスキルを使って、時にはユーモアを交え配慮を示しつつ、自分の熱意を伝染させ、意見の不一致を解決していく。
ちょっとしたことが気になる方はこちら
EQを高めるトレーニング方法
EQを高めるトレーニング方法を4つの要素ごとに説明します。
自己認識
自己認識とは自分自身の感情を読み取る力です。実は自分の感情を読み取るのは比較的容易です。感情は「イライラする」「悲しい」「寂しい」「焦る」「怖い」など、思いつく言葉で表現してかまいません。例えば次のようになります。
- 電車が遅れイライラする
- 上司に叱られ悲しい
- 試験前なのでドキドキする
- 仕事の〆切が迫り焦る
このように感情の動きは、少し意識すれば把握できます。大切なのは、感情の背後にある思考を読み取ることです。感情は必ず、思考の後に湧き出ます。出来事に対する人の反応は思考から始まり、感情、身体、行動、結果とつながります。(下記の図参照)
自己認識では、この思考を捉えることが大切です。先の例を基に思考の例をあげてみました。
- 電車が遅れイライラする → 30分で着けるところが60分かかってしまった。30分あれば何かできた、損した。
- 上司に叱られ悲しい → がんばってるつもりなのにダメだ。自分は上司に評価されていないのだろう。
- プレゼンの場でドキドキする → 自分は流暢にかっこよく話せていないかもしれない。話が下手だと受注できない。
- 仕事の〆切が迫り焦る → 〆切に間に合わないかもしれない。間に合わないと評価が下がる。
このように感情の背後には、必ず思考があります。日常で感情が下がった時に、自分は何を考えていたのだろう?と思い返す練習をすると、次第に思考が特定できるようになります。
自己管理
自己管理とは安定していない感情をコントロールすることです。感情を直接コントロールすることはできません。上記の図で示したように出来事に対し最初に思考があり、思考を受け感情が生まれます。感情をコントロールするには、思考をコントロールする必要があります。仲の良い友人にアドバイスするつもりで考えると視野が拡がり、思考の変容が促されます。こちらも先の例を基に見ていきます。
出来事と感情 | 思考 | 仲の良い友人へのアドバイス |
---|---|---|
電車が遅れイライラする | 30分で着けるところが60分かかってしまった。30分あれば何かできた、損した。 | 30分で何ができた?スマホ見たり雑談したりしてあっという間に30分経つよ。そこまでイライラする必要あるか? |
上司にミスを叱られ悲しい | がんばってるつもりなのにダメだ。自分は上司に評価されていないのだろう。 | 上司は行動が間違っているから叱ったんだよ。がんばりを否定したわけではないよ。こんなこと評価に関係ないよ。次はミスしないようにすればいいだけ。 |
プレゼンの場でドキドキする | 自分は流暢にかっこよく話せていないかもしれない。話が下手だと受注できない。 | お客さんは流暢なプレゼンを聞きたいわけではないよ。お客さんのニーズにどれだけ合っているか、信頼できる人達なのかを見てるよね。そんなことよりお客さんに意識を向けたほうがいいよ。 |
仕事の〆切が迫り焦る | 〆切に間に合わないかもしれない。間に合わないと評価が下がる。 | 限りある時間で、やるだけやればいいと思うよ。評価云々より、与えられた課題に、真摯に向き合い対応するだけ。 |
いかがでしょう。感情が下がっている時は視野が狭くなっているため、思考が偏りがちです。仲の良い友人の立場になると、違う視点で見れるようになります。こうして自分の思考が偏っていたことに気づき、感情が安定します。
関係の認識
関係の認識は共感です。共感とは、他者の思考や感情を自分も同じように思考し感じることです。共感できるようになるには、傾聴を練習するのが有効です。傾聴は他者の話を聴き、問題など物事を対象とするのではなく、人として理解し受け入れ、内省を促すことが目的となります。
傾聴で大切なのは、相手に愛情をもって接することです。愛情がないまま技法だけ使用しても、必ず相手に伝わり、逆に信頼関係を壊してしまいます。愛情をもって接しながら、相手の話を否定せず、意見せず、話を折ることなく、聴きます。相づちと伝え返しにより、相手の内省を促します。例えば、1on1での傾聴の出だしは次のようになります。
職場になかなか慣れず、ちょっと向いてないかなと・・・。
伊集院
そうですか。職場になれず、向いていないと思い始めたんですね。
そうなんです。。。会社選びを間違ったかなと。。。
伊集院
・・・(少し間を置く)・・・具体的に何があったのか話していただけますか。
人は具体的な経験を語ると、その時の状況が頭の中に再現され、感情と思考が蘇ってきます。相手の話が途切れたところで、職場に慣れず向いていないと感じた経験を話してもらい、その時どんな気持ちだったか問いかけます。感情や気持ちを対象に何度か問いかけることで、相手は内省のきっかけを得て、自分の気持ちを話しだします。
この傾聴の経験を積むことで、ちょっとした間、声の大きさ、話す順番なども意識するようになり、相手の感情や思考を察知する力がつきます。
関係の管理
関係の管理は、他者との関わり方をうまく管理する能力です。他者との関わりは、「人を動かす」/デール・カーネギーが参考になります。人を動かす三原則を提唱しています。
出所:人を動かす/デール・カーネギー
項目 説明 盗人にも五分の理を認める 相手を批判も非難もせず、苦情も言わないこと。相手を尊重し、理解しようとすること。 重要感を持たせる 相手に心からの賛辞を与え、自尊心や自己重要感を満たすこと。相手の長所や成功を認め、褒めること。 人の立場に身を置く 自分のことではなく、相手のことを考えること。相手が何を望んでいるのか、何に興味があるのかを見抜き、そこに自分の提案や要求を合わせること。 人を動かす三原則
上記を踏まえると、人との関係は他者の行動の背景に想いを巡らせ、良い点を心から認め、仕事を通じて他者の望みが叶えられるようにかかわることが大切であることが分かります。こちらの言い分を伝える前に、相手の状況を想像し、望みが叶えられるように仕事をお願いするということです。
とは言え、人とのかかわりは上手くいくことばかりではありません。期待し手厚くサポートしても、思うようにいかないこともあります。アドラー心理学の「課題の分離」が参考になります。
- 自分でコントロールできるものは自分の課題
- 相手にしかコントロールできないものは相手の課題
例えば、「部下がすぐ動かないので、イライラする」場合、部下と上司の課題は次のようになります。
- 部下の課題:すぐ動かないこと
- 上司の課題:イライラすること
部下がすぐ動かないのは、上司にどうすることもできません。これは部下の課題です。上司は自分のイライラはおさえることはできます。また、上司には次のような行動も可能です。
- 部下がすぐ動くように促す
このように課題を分けて考えると、すぐ動けるようになることは部下の課題、上司の自分にはどうすることもできない。、自分は自分のできることをやる、結果がどうであれ、部下がすぐ動けるよう促してあげれば良い、それが上司の役割だ、と思うことができます。
自分の感情を知り安定させ、他者の感情を知ることで、穏やかな気持ちで相手に接することができます。この状態ではじめて他者との関わりに意識を向け、うまく管理することができます。1の自己認識から順番にトレーニングすることで、4の関係管理が達成できます。
- 自分や他人の感情を認識する感情認識(自己認識)
- 感情を思考に役立てる感情利用(自己管理)
- 感情の意味や変化を理解する感情理解(関係認識)
- 感情を目的に沿って調整する感情管理(関係管理)
EQをもっと知る。心理的安全性との関係
まとめ
日本の働き手は低エンゲージメント、低生産性、増える精神疾患など、多くの課題に直面しています。心の知能指数EQは、これら全てのベースとなります。本記事ではEQの概要を説明した上で、具体的なトレーニング方法を紹介してきました。EQを高めるには次のトレーニングが有効です。
- 感情が下がった時にその時の思考を特定する(自己認識)
- 特定した思考に対し、仲の良い友人のつもりでアドバイスする(自己管理)
- 愛情をもって、否定せず、先入観なしで他者の話を聴く(関係認識)
- 他者の立場になり、希望が叶えられるよう配慮する(関係管理)
環境変化が激しく、現代は心の力が求められる時代です。人間力、レジリエンス、メタ認知力、EQなど言葉は違え、全ては自分の感情と思考を知るところから始まります。これはトレーニングにより誰しもできるようになります。習得までには数ヶ月を要しますが、1ヶ月で変化を実感できます。
- 仕事で行き詰っている
- 仕事が伸び悩んでいる
- 人間関係で悩んでいる
こうした方は、本記事で紹介したトレーニングをぜひ試してみてください。
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