- 管理職がうまく機能していない
- 管理職が部下に仕事をふれない
- 管理職だが人材マネジメントができない
本記事は、企業のこんな悩みや疑問を解決します。
上場企業の課長に関する実態調査(第7回)/学校法人産業能率大学総合研究所によると、上司が今後強化したい能力・知識のトップは「部下を育成する力」です。「部下を率いていく力」「部下を適正に評価する力」を合わせると、部下に関することが64%を占めています。管理職が人材育成に苦労している姿が浮かび上がってきます。
出所:上場企業の課長に関する実態調査(第7回)/学校法人産業能率大学総合研究所
本記事では、管理職の部下育成の現状、部下育成ができる管理職を育成する方法について説明します。今すぐ管理職の育成方法を知りたい方は、こちらをご覧ください。
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目次
管理職の仕事
最初にあらためて管理職の仕事を確認します。管理職の仕事には、大きく事業貢献と人材育成の二つがあります。事業貢献は、組織の戦略を理解し実行することです。人材育成は、部下の能力開発とキャリア成長の支援です。それぞれ次のような能力やスキルが求められます。
- 事業貢献
- 戦略的思考: 組織の長期的なビジョンと目標に沿った戦略を策定し、それを実行に移す能力。
- 意思決定: データに基づく分析やリスクの評価を通じて、迅速かつ効果的に意思決定する力。
- リーダーシップ: チームを鼓舞し、共通の目標に向かって導くリーダーシップスキル。
- 結果の評価と改善: 目標達成度を評価し、結果に基づいてプロセスを改善する力。
- 人材育成
- コミュニケーション: 明確で効果的なコミュニケーションを通じて、部下の理解と協力を得る力。
- フィードバックと指導: 定期的なフィードバックを提供し、部下の成長と発展を促進する力。
- 個々の強みの活用: 部下の個々の強みを見極め、それをチームの利益に活かす力。
- キャリア開発のサポート: 部下のキャリア目標を理解し、それに合わせたトレーニングや機会を提供する力。
多くの管理職が人材育成につまずく
ほとんどの管理職は、事業貢献で優秀な実績を上げ管理職に昇進します。管理職の仕事には事業貢献と人材育成がありますが、通常は管理職になるまで人材育成の経験は積めません。この結果、人材育成につまずく管理職が多くいます。
管理職の部下へのかかわり方は?
上場企業の課長に関する実態調査(第7回)/学校法人産業能率大学総合研究所によると、50%を超える上司が、部下に対し次のようなコーチング的なかかわりを実施しています。
- 日ごろから職場メンバーの話を聞くときは、相手の話をさえぎらず傾聴している
- 特定のメンバーをえこひいきしたりせず、公平に接している
- メンバーの多様な価値観を否定せず、受け入れている
出所:上場企業の課長に関する実態調査(第7回)/学校法人産業能率大学総合研究所
ここから、多くの管理職が、部下を育成しようとがんばっている姿が見えてきます。
管理職と部下のギャップは?
若手社員が上司に期待すること(「新入社員意識調査2023」/株式会社リクルートマネジメントソリューションズより)と上司が実施していることを比較整理すると、次のようになります。
若手社員が上司に期待すること | 上司が部下に実施していること |
---|---|
・相手の意見や考え方に耳を傾ける ・一人ひとりに対して丁寧に指導する ・好き嫌いで判断しない ・よいこと、よい仕事をほめる ・職場の人間関係に気を配る | ・日頃から部下の話を傾聴している ・多様な価値観を否定せず受け入れている ・部下はえこひいきせず公平に接している ・感謝やねぎらいの言葉をかけている ・日頃からメンバーを観察 |
十分かどうかはさておき、部下が上司に期待していることを、上司は部下に一定レベル実施していることが分かります。
管理職が部下育成に苦労する理由は?
ではなぜ、管理職は部下育成に苦労しているのでしょうか。上司が傾聴、感謝、観察などコーチング的なかかわりをしても、上司自身が次のような場合、部下は心を開いてくれません。
- 言ってることとやっていることが違う
- 前向きな話をしながら不安げな表情を浮かべる
- 常にべき論に固執する
部下が心を開いてくれるようになるには、「上司自身も自分の心に素直に生きる」ことが大切です。アメリカの臨床心理学者カール・ロジャーズは、これを「自己一致」と呼びました。
「自己一致」とは、ありのままの自分を感じ取り認める状態になることです。『心理カウンセリング序説―心理学的支援法ー/大山泰宏』から「自己一致」の説明を以下に抜粋します。セラピストを上司、クライアントを部下と読みかえることができます。
セラピストは、まず「自己一致(congruent)」しておかねばならない。これが第一の条件である。すなわち、セラピスト自身が感じ取っている体験と、自分が意識して考えていることが一致しておかねばならない。これはセラピストの基本的な自己の在り方であると同時に、クライアントの話を聴く一瞬一瞬において、そのような在り方であり続けることが大切である。すなわち、カウンセリングの場で感じ取っている感覚に自分が気づいていること、そしてクライアントに対して返す言葉などのアクションが、それに一致しておくことである。これはセラピストが真正(authentic)であり、純粋(genuine)であるということだともいえる。こうしてセラピストが、「体験している自己」と「自己に対する概念」とが一致した状態であり続けることが支えとなり、クライアントの側でもそれら2つの自己が一致していくことへと結びつくのである。
*太字は筆者
出所:心理カウンセリング序説―心理学的支援法ー/大山泰宏
「自己一致」できていない場合、傾聴しても相手はなかなか心を開いてくれません。ロジャーズはカウンセリングにおいてクライアントのパーソナリティ(人格)の変化が始まるための条件を挙げています。その中でセラピストの態度や心構えを示した以下3点は、ロジャーズの三原則として知られています。
- 自己一致
- 無条件の肯定的関心
- 共感的理解
自己一致はセラピストの心の状態、無条件の肯定的関心は態度、共感的理解は能力と言われ、自己一致は3条件のベースとなっています。セラピストはクライアントに無条件の肯定的関心と共感的理解を示しますが、同時に自分自身にも無条件の肯定的関心と共感的理解を示している状態が自己一致が達成できている、と言えるかもしれません。
部下育成の方法を知る
管理職を育成する方法
自己一致できていない状態
部下を育成するためには、まず管理職が「自己一致」を目指す必要があります。100%の自己一致は理想ですが、現実的ではありません。少しでも自己一致が達成できるよう意識することが大切です。自己一致には、ありのままの自分を感じ取り認める状態になる必要があります。
自己一致が達成できていないとは、次のような状態です。いずれも自分を感じ取り認めることができていません。自己一致が達成できると、感情を受け入れ、冷静に状況を見ることができ、合理的な考えを導きだすことが可能です。
- 部下が思うように動いてくれず、いつもイライラしている
- パワハラや部下に嫌われることを恐れ、部下に厳しいことを言うのをためらう
- 仕事でミスをしたり注意されると、長い間落ち込みが続く
- 否定されるのが怖く、新しいことや目立つことへのチャレンジを控えている
- 周りが優秀で、自分はこれ以上無理かなと思うことがある
- やる気が下がり、新しいことに取り組む気持ちがわかない
自己一致に至るプロセス
自己一致を達成するには、自分に正面から向き合おうと思うきっかけが必要です。自らの存在を脅かし、乗り越えようと思える出来事がきっかけとなります。こうした出来事を体験することで、意識が自分に向き易くなります。この状態の時、他者とのやり取りからヒントを得て、内省が促されます。
自己一致に至るプロセスをまとめると、次のようになります。
# | プロセス | 説明 |
---|---|---|
① | 辛い出来事を体験する | 誰しも人生において、仕事で大きな失敗をした、身体を壊した、出世レースから外れた、家族で問題が発生した、災害または事故にあったなど、突然の予期しない出来事を体験することがあります。かなり落ち込みますが、これがきっかけになり意識が自分に向き易くなります。 |
② | 乗り越えなければと思う | しばらくすると、このまま落ち込んでいてもダメだ、何とかしなければと思い始めます。逃げるか、無視するか、乗り越えるか、悩みます。この時、乗り越えるを選択する条件は、個人の資質や環境に依存します。思わぬ他者とのやり取りから、乗り越えるを選択するケースがあります。乗り越える選択をせず、環境を変えたり、やり過ごしたりする場合は、自分を変える道が閉ざされることになります。 |
③ | 内省し自分を受け入れる | 乗り越えることを選択した場合は、自ずと内省が始まります。内省に慣れていない方は、書物や人の力を借りることもあります。内省は過去の経験を振り返ることで、自己理解を高めます。自己理解が高まると自分の弱さを肯定できるようになります。同時に他者理解も深めることができます。他者の弱い点を認めて受け入れられるようになります。 |
④ | コーチング的なかかわり方が活きる | ここまできて自己一致が達成できる状態になりました。ありのままの自分を受け入れながら、部下に対し観察、感謝、傾聴などコーチング的なかかわりを実践することで、部下は心を開いてくれるようになります。 |
内省について詳しく知る
コーチングによる伴走支援がプロセスを促進
上記の「自己一致に至るプロセス」は、前半の難易度が高く、後半にいくほど難易度が下がります。前半は自分の弱さと向き合う必要があるため、人は恐怖を感じます。多くの人は無意識にこれを避けようとします。後半は自分に向き合うことにも慣れ、コーチングスキルは練習を積むことで習得が可能なため、難易度は下がります。
「①辛い出来事を体験する」から「②乗り越えなければと思う」までのハードルは、恐怖を伴うため最も高くなります。辛い感情を丸ごと味わい、自分という人間と正面から向き合う必要があります。人は誰しも弱さ、狡さ、嫉妬心、劣等感など他者には知られたくない領域があります。普段はこの領域を無意識に遠ざけ生きていますが、①→②に行くためにはこの領域にも向き合う必要があります。
「②乗り越えなければと思う」から「③内省し自分を受け入れる」までのハードルは、深い内省です。内省に慣れていない場合は、自責の念が強く出てきたり、視野が狭かったりして、堂々巡りになるケースがあります。書物や人の力を借りながら、深い内省を促す工夫が求められます。
このように①→②→③までのハードルを如何に乗り越えるかが、自己一致を達成できるかのポイントとなります。ハードルを乗り越える力となるのが、コーチングによる伴走支援です。信頼できるコーチとの対話が、①→②の恐怖に対する抵抗感を抑えると同時に、乗り越える覚悟を促すことができます。コーチの問いかけにより②→③の深い内省が促されます。
マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年/株式会社リクルートマネジメントソリューションズによると、管理職に昇格した時に「なかったがほしかった経験」として、「8.専門家による個別コーチング」が27.3%と、「あてはまるものはない」以外でトップとなっています。
出所:マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年/株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
コーチングによる伴走支援の概要
コーチングによる伴走支援の概要を記載します。詳細は、こちらを参照ください。
- 対象者
- 対象はパフォーマンスが伸び悩む管理職です。会社としては研修も提供し、指導もしているが、なかなか変わらない管理職です。
- 方法
- スタートから約半年間、6~7回の面談を実施します。初回面談で状況をお話いただいた後にゴールを設定し、以後はゴールに向けた対話をしていきます。面談と面談の間には、小さなホームワークを実施してもらい、体験を通じた理解を促します。
- 特徴
- 様々な取り組みにより、クライアントが安全と感じる場の提供を徹底します。
- ビジネスとコーチング両方の経験が豊富なコーチが担当します。
- 面談の中では、事象の理論的な背景を説明し、理屈を知ってもらいます。
- 書くこと、書いたメモを読むことで気づくを習慣化してもらいます。
- 感情が下がった時に、出来事、感情、思考を書きだす「じぶんコーチング」を習得してもらいます。
コーチングによる伴走支援
まとめ
本記事では、管理職の部下育成の現状、部下育成ができる管理職を育成する方法について説明しました。上司や若手社員の調査からは、管理職は部下が期待していることを、一定レベル実施していることが分かります。しかし、管理職が傾聴、感謝、観察などコーチング的なかかわりをしても、部下が心を開いてくれないことがあります。
上司自身も自分の心に素直に生きる「自己一致」ができていないことが原因の一つです。自己一致とは、ありのままの自分を感じ取り認める状態になることです。自己一致を達成するためには、自分自身に正面から向き合おうと思うきっかけが必要です。ここから、意識が自分に向き易くなり、深い内省へと進んでいいきます。
一方で自分に正面から向き合うことは苦痛を伴います。苦痛を和らげ、乗り越える力を与えてくれるのが、コーチングによる伴走支援です。信頼できるコーチとの対話が、管理職の潜在力を引き出し、部下から信頼される管理職への成長を促します。ぜひ一度ご検討ください。
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